「今日も強いこと言ってくれる感じ」に
惹かれる人たち

 時事問題について、原稿を書いたり、ラジオで話したりしていると、「〇〇の点について、引き続き考えていきたい」と締めくくりたくなる。なぜって、引き続き考えなければいけない問題だから。でも、いつの頃からか、「引き続き考えていきたい」という表明が、「うわ、この人、結論出せないんだ」と受け止められるようになった。
「〇〇の理由は△△だ!!」と単純に言い切るコンテンツが溢れ、多くの人は、問題となっている「〇〇」より、その理由としてあげられている「△△」より、その人が「!!」というテンションで断言している状態に興奮している。教養とは「〇〇」と「△△」について反復しながら考える行為だと思っているが、「!!」の勢い、それを欲する観客の数によって、教養が計測されるようになってしまった。
 私は頻繁にBOOK・OFFに行くのだが、店の性質上、数年前のベストセラーが並んでいる。本書で取り上げられている堀江貴文、ひろゆき、橋下徹らの書籍も数多く並んでいるが、内容的には古くても、テンションは変わらない。本書では、ひろゆきの著書『自分は自分、バカはバカ。』を取り上げ、「そのように『こちら側』と『向こう側』に線を引いて、『向こう側』に対する優越感をくすぐることに特化した態度が果たして『教養』なのだろうか」と書く。確かに、著者が問題視する「ファスト教養」の多くには、この「優越感をくすぐる」が内蔵されていて、自分のほうを向いてくれる人には「□□せよ!!」と熱い指示を出し、批判的に見てくる人には嘲笑を返す。
 指示と嘲笑が繰り返されているうちに、その人が何を言っていたか、ではなく、その人が「今日も強いこと言ってくれる感じ」に惹かれていく。明らかに間違っていても放置される。たとえば、安倍晋三元首相が銃撃された数時間後、堀江貴文が「反省すべきはネット上に無数にいたアベカー達だよな。そいつらに犯人は洗脳されてたようなもんだ。」(原文ママ)とツイートしていた件など、支持する人たちはもう覚えちゃいないのだろう。私は覚えている。そういう断言がいかに乱暴か。なぜ、それでも受け入れられるのか、引き続き考えていきたい。

ファスト教養10分で答えが欲しい人たち
レジー
『ファスト教養 10分で答えが欲しい人たち』著:レジーを 武田砂鉄さんが読む 「今日も強いこと言ってくれる感じ」に惹かれる人たち_1
2022年9月16日発売
新書判/256ページ
1,056円(税込)
ISBN:978-4-08-721233-4

【「教養=ビジネスの役に立つ」が生む息苦しさの正体】
社交スキルアップのために古典を読み、名著の内容をYouTubeでチェック、財テクや論破術をインフルエンサーから学び「自分の価値」を上げろ───このような「教養論」がビジネスパーソンの間で広まっている。
その状況を一般企業に勤めながらライターとして活動する著者は「ファスト教養」と名付けた。
「教養」に刺激を取り込んで発信するYouTuber、「稼ぐが勝ち」と言い切る起業家、「スキルアップ」を説くカリスマ、「自己責任」を説く政治家、他人を簡単に「バカ」と分類する論客……2000年代以降にビジネスパーソンから支持されてきた言説を分析し、社会に広まる「息苦しさ」の正体を明らかにする。

【おもな内容】
第一章 「ファスト教養」とは?──「人生」ではなく「財布」を豊かにする
「ファスト教養」と「教養はビジネスの役に立つ」/「教養」と「金儲け」をつなぐ「出し抜く」

第二章 不安な時代のファスト教養
「脅し」としての教養論/読書代行サービスとしての「中田敦彦のYouTube大学」/
世界のエリートのように「美意識」を鍛える必要はあるか/ファスト教養は「オウム」への対抗策になるか

第三章 自己責任論の台頭が教養を変えた
「ホリエモンリアルタイム世代」が支えるファスト教養/勝間和代は自分の話しかしない/教養×スキルアップ=NewsPicks/
橋下徹と教養の微妙な関係/ひろゆきが受け入れられた必然/ファスト教養に欠落しているもの

第四章 「成長」を信仰するビジネスパーソン
インタビュー1 着々とキャリアアップする三〇代/インタビュー2 大企業で自問自答する二〇代

第五章 文化を侵食するファスト教養
「ファスト映画」と「ファスト教養」/ファスト教養視点で読み解く『花束みたいな恋をした』/
AKB48と「ネオリベ」/利用される本田圭佑/「コスパとエンターテインメント」の先に何を見出すか

第六章 ファスト教養を解毒する
ファスト教養をのぞく時、ファスト教養もまたこちらをのぞいているのだ/
リベラルアーツとしての雑談、思考に必要なノイズ/「ジョブズ」を理解する受け皿になる
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