元祖みそかつの店のカツ丼も…
そして、この店にも白眉の汁麺がある。朝日屋ではカツ丼を注文する人はだいたい中華そば(490円)も注文する。汁麺とのセット割引はないものの、この一杯がまた素晴らしい。
チャーシューとかまぼこがそれぞれ2枚ずつ乗っていて、メンマは麺に合わせて細く切ってある。こういう細やかな仕事がされている店はまず間違いなく旨い。スープは鰹節中心で脂はほとんど浮いていない。揚げ物のカツ丼の脇を固めるのにこのさっぱりスープはうってつけ。それでいて味わいはまぎれもなく中華そばだ。
カツ丼を食べに来たはずなのに中華そばまで旨いとなると、メニューにある“冷やし中華"や"酢なし中華"(酢なしの冷やし)や、本業のうどんやそばも食べてみたくなるが、すでに丼と中華そばを平らげてしまっている。悔しい思いと満腹のお腹を抱えながら、帰り道に「拠点があれば出直せるな……」と近隣の不動産店の店頭で賃貸物件の相場を見てしまった。
最後の1軒は東濃でも西濃でもなく、その中間に位置する岐阜市内のカツ丼だ。名古屋駅から東海道本線快速で18分の岐阜駅へ。目的地は、駅から徒歩15分の「元祖みそかつの店 一楽」である。
1957(昭和32)年に創業した「一楽」のカツ丼はおなじみの卵とじタイプ。もっとも卵でとじられたこの店のカツ丼には一目見てわかる違いがある。
カツの上に味噌ダレがかかっているのだ。実は岐阜県のなかでも、岐阜市内は物理的にも名古屋に近く、交通も至便で人の行き来も多い。味つけも愛知県と似通ったところがある。とんかつ店に行けば、味噌カツの店も多いのだ。
丼つゆは少々甘めでつゆだく。つゆが多めということもあって丼にはレンゲが添えられる。ボリュームたっぷりでつゆもたっぷり。ざばざばとかっこめば、さっき書いたばかりの「コメが浸かるほどのつゆはなくていい」という一文を早くも撤回したくなる。やっぱりこれはこれでうまい。
丼のアタマにかかった味噌ダレごとかっこめば味噌味のカツ丼にも、味噌ダレの部分を食べ分ければ味の変化もつけられる。丼のアタマに垂らされた味噌ダレひとつで、この店のカツ丼は地域性を際立たせている。