カツ丼も美味いが脇の丼もまた美味い

そもそもがそば・うどん店だけあって、そば・うどんを+220円でセットメニューにできる。うどんも讃岐うどんのようなわかりやすいコシというより、福岡うどんにも似た口当たりのやさしいコシが、サバ節と昆布という関西風のあっさり出汁と相まってなんとも沁みる。

これだけは食べとかないかん! 岐阜で出会える独創的カツ丼5種_2
「鶴岡屋本店」はそば・うどん店
これだけは食べとかないかん! 岐阜で出会える独創的カツ丼5種_3
看板には「麺類」と掲げられている

大垣にうどんのイメージは持っていなかったが、大垣市は三重との県境に位置していて、日本でもっともやわらかいといわれる「伊勢うどん」の本場、伊勢市にも比較的近い(経度は同じ東経136°)。美濃路の宿場町でもあった大垣宿はやわらかいうどんで旅の人々をやさしく包み込んだのかもしれない……という話は伊勢うどん大使でコラムニストの石原壮一郎さんがいかにも仰りそうなので自重しておこう(と思いつつ、書いてしまった)。

そして大垣にはもう1軒、他所では見ないカツ丼を出すうどん店がある。大垣駅から徒歩12分にある老舗「手打ちうどん朝日屋」だ(地元のタウン誌には明治創業とあったが、現在の店主が3代目だそうなので、1950年前後、戦後ほどなく現在の業態になったと思われる)。

朝日屋のカツ丼は、他のどこのカツ丼にも似ていない。というのも、まずこのビジュアルである。

これだけは食べとかないかん! 岐阜で出会える独創的カツ丼5種_4
ふわっふわっの卵がカツの上にのった朝日屋のカツ丼
これだけは食べとかないかん! 岐阜で出会える独創的カツ丼5種_5
朝日屋もまた看板には「手打ちうどん」が掲げられている

まず目に飛び込んでくるのが、スペインで言う"エスプーマ"か、静岡・袋井の"卵ふわふわ"かというような、ムース状の全卵だ。出汁で溶かれた全卵が泡立てられ、カリッと揚がったカツを包むように覆っている。外側はほぼレアな泡立て卵だが、内側は熱が入った、卵ふわふわ状態だ。要するにカツ丼+卵かけご飯+卵ふわふわという、とてつもなく贅沢な代物だ。

出汁は香るが、いわゆる甘辛いカツ丼のつゆよりも遥かに上品で、ごはんにもほとんどつゆが沁みていない。いわゆる"つゆ抜き"に近い。

個人的な好みになるが、カツ丼にはコメが浸かるほどのつゆはなくていい。カツにきっちり味がついていれば、コメに味がついていなくてもいいし、そもそもつゆが多いとコメとコメの間のねばりがつゆに溶けてしまって、雑炊化してしまう。コメ一粒一粒をしっかり噛みこんでこそ味わえる、コメの甘みももまた丼飯の醍醐味だ。その点、朝日屋のカツ丼はご飯の旨さも際立つ組み立てになっている。