「誤差の範囲」とはとうてい呼べないプーチンの豪語

米メディアの評価機関Media Bias/Fact Checkも、ISWの論調を「中道右派」としつつ、報道の事実性については「概ね事実に基づく水準」にあると評価している。

ISWのホームページ
ISWのホームページ

しかし、ここが重要なところだ。政治的立場の傾きと、コスチャンチニフカで実際に何平方キロの土地が動いたかという定量的な検証精度は、まったく別の問題である。

ISWの評価が価値を持つのは、政治的な主張の当否ではなく、地図と映像と数字を照合するという、他の一般報道機関がほとんど手を出さない地味な作業を、侵攻開始以来一日も欠かさず続けてきたという実績にある。

だからこそ本稿は、ロシア側の主張とISWの確認値を突き合わせる作業に、確信を持って踏み込んでいきたい。

年初からの累計で見ても、同じ構図が繰り返されている。プーチンは133集落、3000平方キロ超と豪語したが、ISWの確認値は64集落、約621.7平方キロにとどまる。誤差の範囲とはとうてい呼べない。

これは国家のトップと、その軍事を統括する参謀総長が、揃って同じ嘘を練り上げた結果である。

部隊の小さな前進を「都市の解放」と誇張

そもそも「解放」という言葉自体が滑稽だ。ISWの検証によれば、6月中旬時点でコスチャンチニフカ市内にいたロシア兵はわずか100人から250人。6月23日時点では、ウクライナ兵の数のほうが多かった。

7月6日には、ウクライナ軍が市の中央部と北部で活動している位置特定映像まで確認されている。ロシア側が世界に配信したのは、旗を掲げる少人数の兵士の映像だけだ。

しかもその映像は短く切り取られ、兵士たちがその後どうなったかは誰も分からない。車両や砲が市内で運用されている証拠すら一つも出てきていない。

…これのどこが都市の解放なのか。

実態は、ウクライナ陣地の隙間にこっそり潜り込んだだけの、ごく小規模な浸透部隊にすぎない。この誇張はどこから生まれたのか。

プーチン個人が意図的に嘘をついているのか、それとも下から上がってくる情報自体がすでに腐っているのか。

もはやプーチンは哀れな「裸の王様」なのか
もはやプーチンは哀れな「裸の王様」なのか

ISWは5月28日の評価で、興味深い事実を明らかにしている。

ロシア軍上層部が、実際の支配地域より広く塗られた地図をプーチンに見せていた可能性が高いというのだ。西ザポリージャ方面の地図は実態よりも大きく塗られ、ゲラシモフの主張とも都合よく符合していた。

参謀総長という軍事の要にいる人物が、正確な戦況を伝えるのではなく、誇張された戦況を演出する側に回っている。