きちんとした移民受け入れと労働市場改革を
減税についても、税調の審議を経ていないため、骨太の方針には明確に書き込めず、のらりくらりとした姿勢が目立ちます。総理がどこまで本気で改革を考えているのか、まだビジョンが見えてきません。はっきりいえばこれまでの石破政権や岸田政権と大きく変わらない政権とも言えます。
今の時代、政府の役割は従来以上に重要です。防衛費の増額やリスクを伴う研究開発への投資も必要です。
しかし、支出を増やすなら、コンセッション(官民連携)の推進や本格的な社会保障改革など、政府がやってきた余計なことを減らす努力をしなければなりません。それを怠れば、行き着く先は増税しかありません。
日本経済の起爆剤となるのは、きちんとした移民の受け入れと並んで、何よりも「労働市場の改革」です。
現在、深刻な人手不足にもかかわらず賃金が上がらないのはなぜか。かつては高齢者や女性の労働参加によって人手不足を補ってきましたが、それも限界に達しています。
実は今、転職が容易な20代や30代の給料は上がっています。より高い賃金を求めて職場をかえるからです。しかし、中高年の給料は上がっていません。終身雇用と年功序列のもとで絶対にクビにならないと信じ、今の職場にしがみついているからです。
本人が「今のままで安泰だ」と思っている以上、政府がいくらリスキリングのプログラムを提供しても進むはずがありません。労働市場が柔軟になり、賃金の低いところから高いところへ人が移動して初めて、国全体の賃金は上がるのです。
野党は「中傷動画問題」のような重箱の隅をつつくようなことばかりに終始
また、日本の大企業が外資系企業のようにレイオフ(一時解雇)を行えないのは、強い労働組合と「訴訟リスク」があるからです。
1979年の東京高裁の判例により、解雇権の濫用が厳しく制限されています。外資や中小企業は訴訟リスクを恐れずに実行しますが、大企業は訴訟されて負けることを極端に恐れています。
だからこそ、この古い判例をオーバーライド(上書き)するような新しい法律を、国会が責任を持って作らなければならないのです。
しかし、肝心の国会は機能不全に陥っています。国会の機能というのは、要するに「野党が強いかどうか」にかかっています。
今の野党は、中傷動画問題のような重箱の隅をつつくようなことばかりに終始し、国民もすでに飽き飽きしています。
維新は何をやっているんだ
本来であれば、野党こそが労働市場の改革など、根本的な制度改革を積極的に提案・追及すべきなのに、それを全くやっていません。この点については、日本維新の会にも責任があると感じています。
定数削減や国旗損壊罪成立といった主張だけではなく、橋下徹氏がいた頃の「維新らしさ」を取り戻し、国会で本格的な制度改革の議論をリードしてほしいと強く期待しています。今は高市政権をひたすら立てているだけではないでしょうか。
日本経済が直面しているのは、小手先の対策では解決できない構造的な危機です。過剰な流動性に支えられた危うい株高や、場当たり的な財政支出、そして痛みを伴う労働市場の改革から逃げ続ける政治の姿勢は、将来世代に対する無責任に他なりません。
今、求められているのは、些末なスキャンダル追及に明け暮れる国会ではなく、国民に「改革に伴う痛み」を直視させ、本質的な制度改革を断行する真のリーダーシップです。
与野党を問わず、保身を捨てて日本経済の土台を根本から作り直す重厚な政治論争へと立ち返ることを、私は強く求めます。
文/竹中平蔵












