「細田は変わった」と言われることも多いけれど…
──細田さんが橋本カツヨ名義で絵コンテを担当した『少女革命ウテナ』の第29話「空より淡き瑠璃色の」(1997年放送)は、三角関係を椅子の向きで表現していたり、そういう姿勢が色濃く出てますよね。
『ウテナ』は、登場人物が言葉で言っていることは、嘘ばかりなんですよね。むしろ絵の方が真実を語る作品。29話は、樹璃というキャラクターのひとつの決着をつける回でもあります。
──樹璃は同性である枝織に思いを寄せながら、苦しんでいるキャラクターです。
樹璃は、気高くて、みんなに憧れられる存在なのに、すごく素朴な「ただ気持ちが伝わらない」ことに悩んでいる。そのアンバランスさがいいんですよ。そこにどう落とし前をつけるのか。それが29話でした。
──あの回は、もともと脚本があったものを、細田さんが大きく変えたそうで。
懐かしい話!(笑) そうです。僕は7話「見果てぬ樹璃」から、延々と彼女を描いてきた人間でもあったので、思い入れがありました。
僕自身、優秀なスタッフに囲まれて、毎日戦っているような状態で、脱毛症になったり、心身ともにボロボロだった。彼女に共感する部分があったのだと思います。
当初予定されていた29話の脚本では樹璃がかわいそうで……そこで、幾原邦彦監督に相談して「スケジュールに間に合えば」という条件で許可してもらいました。時間がなかったので、最初から絵コンテを切ってます。
28話からは、不安定な状態の樹璃の前に、瑠果という男性キャラクターが登場する。瑠果は樹璃を傷つけるように振る舞うものの、実は彼が彼女を一番救おうとしているんです。
──瑠果は樹璃のことを想っているから。
でも、瑠果の気持ちも届かない。そのすれ違いも含めて、彼らの関係なんだと思います。だからこそ、樹璃にどう決着をつけてあげるかを考えた。幾原監督とは、相手を救うために自分が悪役を引き受ける『泣いた赤鬼』のような物語にしようと話しました。
──お話を聞いていると、最新作の『果てしなきスカーレット』(2025年)にも通じるものがあるように感じました。
そこはあまり届かなかったというか……『果てしなきスカーレット』は爆死してしまったし(苦笑)。
でも、僕の中ではつながっているんです。「強い女性を描くようになったのはなぜですか」と聞かれたり、「細田は強い女が好きなんだ」と見られたりすることもある。
でも、キャラクターの性別にこだわっているつもりはありません。男性キャラクターもたくさん描いてきましたからね。
「細田は変わった」と言われることもありますが、中学生の頃からやっていることは変わらない。根本的に「負けそうになっている人が負けないでほしい」という気持ちが強いんです。
──なぜそう思われるのですか?
……吃音ということも関係があるのかもしれません。言いたいことがあっても言えない。それをわかってもらえない。あの頃の経験が、自分の中にはずっとある。
僕は「負けそうな人が、そのまま負ける社会」が嫌なんです。どんな人生にも、負けそうになる瞬間があるでしょう。言葉が届かなかったり、誰かとすれ違ったり、自分ではどうにもできないことにぶつかったりする。
でも、その痛みをなかったことにはせず、それでも負けないでほしい。そう思っているんです。
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取材・文/嘉島唯













