映画を作りながら音楽演出を学んだ
樋口が犬童一心と共同で監督を務めた映画『のぼうの城』(2012)は、上野耕路が音楽を担当した。上野は、80年代にテクノポップ・ユニット〈ゲルニカ〉のメンバーとして活動したことがあり、作曲家としても数々の映画音楽を手がけている。
『王立宇宙軍 オネアミスの翼』の音楽制作にも、坂本龍一、野見祐二、窪田晴男とともに参加していた。
「上野さんの音楽はゲルニカの頃から聴いていて、いいなと思っていました。上野さんが書いた映画『帝都大戦』(1989)の音楽もすごくよかった。だから上野さんと仕事ができることになって、とてもうれしかったです。
ところが製作中に東日本大震災が起きて、作業が遅れてきた。このときは上野さんが曲のデモ(メロディや曲調を示す参考音源)と映像に合わせたベーストラック(リズムやテンポのガイドとなる音源)を作り、それをオーケストラで演奏した音に置き換えていくやり方だったんですけど、そのベーストラックを作る余裕がない。
それで、上野さんから『ラフでいいから、絵に音楽を合わせるための仮トラックを組んでくれないか』って言われて、僕が上野さんのデモを映像に合わせて切り貼りして参考音源を作ったんですよ。もちろん曲は上野さんが書くんですけど、一部のシーンで絵と音楽を合わせる作業をやらせてもらいました」
映画を作りながら、樋口は音響演出のノウハウを学んでいった。
「『のぼうの城』の製作と並行して、『MM9(エム・エム・ナイン)』(2010)という深夜放送のテレビドラマの総監督を務めました。
音楽をクライズラー&カンパニー(葉加瀬太郎らが結成した三人組バンド)の斉藤恒芳さんに書いていただいたんですけど、週一本放送するドラマだから自分で音楽演出までやるのは無理だと思って、石井和之さんという売れっ子の選曲家の方に全部お願いしました。
石井さんはステムデータを使い、音楽を自在に編集して映像に当てていくんですよ。『ステムってこうやって使うんだ』と勉強になりました」
ステムデータとは、楽曲を構成する音をリズム、弦楽器、金管楽器といった具合に、楽器グループごとに分割して記録したデータのこと。すべてをミックスすると完全な楽曲になるし、弦楽器の演奏だけを使うこともできる。
リズムから始まり徐々に楽器が増えていくような演出も可能だ。音楽制作のデジタル化が進んだことで可能になった技法である。
樋口が総監督を務め、2018年に放送されたテレビアニメ『ひそねとまそたん』では、岩崎太整が音楽を担当した。岩崎は『モテキ』(2011)『ジョーカー・ゲーム』(2015)などの映画音楽を手がける作曲家で、細田守監督のアニメ映画『竜とそばかすの姫』(2021)の音楽で日本アカデミー賞最優秀音楽賞を受賞している。
「岩崎さんがブログで映画音楽を分析した文章を書いていて、それがすごく面白かったので、『巨神兵東京に現わる』(2012)という短編映画を作ったときに音楽をお願いしました。それ以来のお付き合いです。
『ひそねとまそたん』では、従来のテレビアニメとは違う音楽の作り方をしようと思いました。通常テレビアニメでは、最初に数十曲分の音楽メニューを書いて音楽を作ってもらうんですが、そのやり方をやめたんです。全12話のシリーズだったから、『とりあえず12曲、好きなように作ってください』と、詩のような言葉で曲のイメージを書いたものを渡して作曲してもらいました。
曲はステムデータでもらい、僕が毎回、映像に合うようにステムを組み合わせて音楽を編集したんです。それがたまらなく楽しかった。2回目の音楽録音のときは『フィルムスコアリングでやりたい』と岩崎さんが言ってくれたので、一部は絵に合わせて書いてもらっています。
岩崎さんは、僕が音楽を付けた映像を観ているから、フィルムスコアリングでも方向性がずれることがあまりないんです。すごくやりやすかったです」












