「金太郎、女心を揺らす。」(集英社文庫・コミック版1巻収録)
「裸の男の人に抱かれたのは初めてよ」
矢島金太郎はなぜモテるのか。
顔か。性格か。腕っぷしか……。『サラリーマン金太郎』第9話は、元暴走族総長の金太郎がなぜ女性に惚れられるのかを、豪快すぎる方法で証明してみせた回だ。
舞台は大和会長の別荘。前夜に酒を酌み交わし、そのまま泊まった金太郎は、朝から露天風呂で会長の妻と裸で語り合う。ここで会長の妻が語るのが、「会社にとって一番の財産は人間だ」という話だ。金でも別荘でもなく、人間。忠誠を誓い、思いやりを持ち、仕事をやり遂げる人材がいてくれることが、なによりもうれしいとしみじみ明かす。
そんな話をしている矢先、事件は起きた。
会長の孫娘・有希が運転する車が、山道で操作を誤り、崖から落ちかけるのだ。車は崖スレスレでストップ。だが、中には有希らが取り残されている。そこへ、ためらいなく飛び込んでいったのが、露天風呂からかけつけた金太郎だ。
もちろん全裸である。
有希が窓を開けた瞬間、そこに現れたのは、窓いっぱいの金太郎の“金太郎”。悲鳴をあげる有希にツッコミを入れつつ、落ち着いた声で指示を出し、そのまま救い出す。
落下寸前のピンチから脱した有希だが、この瞬間、確かに彼女は落ちてしまったのだ……恋に。
「裸の男の人に抱かれたのは初めてよ」と照れる有希に、金太郎は「なかなかいいもんだろう」と大人の笑みを浮かべる。裸で。
どんな状況でも、金太郎は金太郎であり続ける。この絶対的な安心感こそ、惚れてしまう理由かもしれない。
だが、ここで終わらないのが第9話だ。
お手伝いの晴海もまた、金太郎に心を動かされる。耳が少し不自由な彼女は、人の唇の動きで言葉を読み取るという。金太郎の唇は「ほかの人よりはっきり動くから、とても分かりやすい」と笑う。
これは文字通りの意味だけだろうか。いや、きっと比喩でもある。金太郎は、思ったことをそのまま口にし、感じたことをそのまま行動に移す男だ。裏も計算もない。だからこそ、言葉はまっすぐ届くし、行動は疑われない。コミュニケーションを取るのが人より少し難しい晴海にとって、金太郎の“わかりやすさ”は、何より安心できるものだったのかもしれない。金太郎に心を動かされるのは、決して不思議なことではない。
孫娘と、元お手伝いさん。世代も立場も違う二人が、同時に同じ男に惚れてしまった。
モテる男とはどんな人のことか。第9話は、その答えをとてもシンプルに見せてくれる回だ。























