「金太郎、社命を受ける。」(集英社文庫・コミック版3巻収録)

社員が自殺……その現場へ向かう金太郎

『サラリーマン金太郎』第27話は、いきなり重い一言から始まる。

「自殺だってな……田所君」

ヤマト建設の社内で交わされる会話。詳細は語られない。遺族のため、そして会社の体面のために、自殺という事実は外部には伏せられているという。ひとりの社員の死が、静かに、淡々と処理されていく。

この描写は決してフィクションの誇張ではない。

警察庁の「平成 20 年中における自殺の概要資料」などによれば、日本の自殺者数は1998年から急増。1999年には男性2万3512人、女性9536人と過去最大規模に達した。特に増加が著しかったのは50代男性だった。

1990年代後半といえば、バブル崩壊後の長期不況の只中。自殺者数の増減は景気動向と密接に関連しているとも指摘されている。『サラリーマン金太郎』が描かれたのは、まさにその時代だ。

そして田所の死の直後、下される人事。新人・矢島金太郎、現場へ……。

しかもその現場は、田所の自殺と無関係ではないらしい。金太郎と親しい先輩たちは、「新人を行かせるところじゃない」と声をひそめる。

過去には職人と揉め、親方が発破を持って事務所に怒鳴り込んできたこともあるというヤマト建設の現場。いまでは滅多にない話とはいえ、今回の現場にはどこか不穏な空気が漂っている。

だが結論はシンプルだ。

「承知したのか、金太郎は?」「承知するもしないも社命だよ」

この時代、会社命令は絶対だった。終身雇用、年功序列、会社中心社会。サラリーマンにとって会社とは生活そのものだった。

出発の朝、黒川社長が金太郎に言う。

「殴りたい奴がいたら殴ればいいさ。骨は拾ってやる」
「田所満の……無念を晴らせ……」

どんな現場だよ……とツッコミたくなるが、金太郎は凛々しい顔で、現場へ向かう。命じられれば行く。それが当時のサラリーマンだった。

果たして彼を待つのは何か。続きは第27話で。