チーム設立の背景に深刻な保育士不足

ビオーレ名古屋は、愛知県のバレーボールクラブ連盟に所属するクラブチームであり、国内最高峰のプロバレーボールリーグ、「Vリーグ」への昇格を目指して実業団リーグに挑戦している。

選手の中心は、名古屋市内の社会福祉法人栄寿福祉会と学校法人正雲寺学園グループに勤務する保育士たちだ。チームは同保育施設の理事長である寿台さんによって、保育士不足解消の一環として設立された。

チームと法人の代表を務める寿台順章さん
チームと法人の代表を務める寿台順章さん

保育士不足問題は2010年代初頭から、保育士の待遇の低さや離職率の高さが待機児童問題とともに顕在化。2025年1月時点で有効求人倍率は3.78倍と、全職種平均の1.34倍を大きく上回る水準。これは求職者一人に対して約3.8件の求人がある状態で、現在も人手不足が深刻であることを示している。

アイデアがひらめいたのは2022年6月頃、ささいなきっかけからだった。

「保育園の職員室に、大学の女子バレー部員がかっこよく映った広告があったんですよ。『保育学科の子たちもいるのかな』とつぶやくと、スタッフから『いるんじゃないですか』という返事があって。

それでピンときて、全国を調査してみると、国公立と私立を合わせて保育学・福祉学・教育学科が100校以上あり、その多くが地域のバレーボールリーグで活動していることがわかりました。就職をしてもバレーが続けられるなら、何割かは興味を持ってくれるだろうと考え、チーム結成を決意しました」

サッカーなど他のスポーツも検討したが、寿台さんの施設で雇用できる規模を考えると、最低6人そろえれば試合に出られるバレーボールは規模感的にもちょうどよかった。

全国で募集をかけると20名の選手が入団テストに申し込んできた。10月には12名に内定を出したという。想像以上に保育士と競技を両立したい人は多かったようだ。

ビオーレ名古屋のプロジェクトは、スポーツ選手のセカンドキャリア問題の解決も目指している。というのも寿台さん、バレーボールは未経験ながらスポーツへの造詣は深い。

幼少期は水泳選手としてクラブチームでオリンピックを目指していたが、身長というハンデを克服できず断念。その後、持ち前の俊足を活かして高校時代はサッカーに打ち込んだ。自らスポーツの世界に身を置いてきたからこそ、スポーツをやめることのつらさ、続けることの大変さを知っている。

「勝利至上主義のスポーツ界では、怪我をしたり能力が低下すると、選手は使い捨てのように引退を強いられがちです。若く人生経験も少ないままスポーツを引退してしまうと、その後のキャリア設計も困難になってしまう。

そのため、『勝つことだけが目的ではない』という理念を掲げて、継続できる体制の構築を目指しました。私たちは教育者として、ビオーレ名古屋を通して次世代に向けて『大人になっても自分の好きなことを続けていい』というメッセージを示していきたいと考えているんです」