「金太郎、照れる。」(集英社文庫・コミック版3巻収録)

金太郎、妻と死別後に初めて身体を交わす

『サラリーマン金太郎』第26話は、銀座のママ・美鈴との夜の余韻が残る朝から始まる。金太郎は、亡き妻・明美を一途に思い続け、彼女を失ってからは恋をしてこなかった。その金太郎が、ついに別の女性と一夜を共にしたのである。

その朝、金太郎は亡き妻・明美の夢を見る。彼女は静かに語りかける。

「今でも大好き……。でもね、もういいのよ。私はちょっとの間しか一緒にいられなかったけど、金ちゃんの奥さんになれて本当に幸せだった。金ちゃんの人生はまだそっちで長いから、私のことはもういいのよ」

金太郎は妻と死別している。いわゆる“没イチ”(配偶者と死別して一人になった人)だ。そんな彼が美鈴と過ごした一夜は、単なる色恋の展開ではない。「死別後、人はどう生きるのか」というテーマを静かに浮かび上がらせる。

実際、配偶者と死別した後の再婚について、日本人の意識は意外なほど複雑だ。

2017年に実施された「“没イチ”と相続に関する意識調査」(有効回答1210名、『不動産相続の相談窓口』調べ)によると、「配偶者が亡くなった後、自分は再婚したいと思う」と答えた人は2割以下にとどまった。一方で、「自分が亡くなった後、配偶者が再婚することに賛成」と答えた人は4割強にのぼる。

自分自身は再婚に積極的ではない。しかし、残された相手には幸せになってほしい。そこには、矛盾しているようでいて人間らしい優しさが見える。

さらに、親が“没イチ”になった場合の再婚については、「賛成」は約3割にとどまり、「どちらとも言えない」が最多となった。反対理由として3人に1人が挙げたのが「遺産相続の問題」である。死別後の人生は感情だけでは完結せず、現実的な事情とも向き合わざるを得ない。

金太郎の態度は、こうした現実とどこか重なる。

金太郎はこれまで、多くの誘いを受けながらも明美を思い断り続けてきた。揺らぐことすらなかった。しかし彼はまだ若く、社会人としての人生も始まったばかりだ。これから先の長い人生を、過去だけを抱えて生き続けることの難しさもまた現実である。