高田晃太郎(左)、椎名誠(右)
高田晃太郎(左)、椎名誠(右)
すべての画像を見る
超巨大歩行機ゴリアテ
著者:椎名 誠
定価:1,760円(10%税込)
超巨大歩行機ゴリアテ
著者:椎名 誠
定価:1,760円(10%税込)

購入する
電子版を購入する
試し読み

ロバとは会話しますか

――椎名さんは「斎藤茂太賞」の選考委員として、『ロバのスーコと旅をする』を選考委員特別賞に選ばれていました。

椎名 『ロバのスーコと旅をする』楽しく読ませてもらいました。
高田 ありがとうございます。
椎名 もう三十年ぐらい前になるかもしれないけど、同じようにロバとの旅を書いた人いますよね?
高田 中山茂大さんですね。『ロバと歩いた南米・アンデス紀行』(双葉社)です。先日、行商の旅の途中で中山さんにお会いしてきたんですよ。千葉県の大多喜町で作家業をしながら「しげキャン」というキャンプ場を運営されていて。そこで椎名さんの話もしましたよ。『ロバと歩いた南米・アンデス紀行』は「ちょっと時代が違ったら、植村直己冒険賞を獲れたかもしれない」と椎名さんから言われたとお聞きしました。
椎名 ああなつかしいなあ。名前は何だっけ、あのロバ。
高田 パブロフのぼる君です。
椎名 そうそう。のぼる君は崖で落ちたりと、ちょっと悲しいエピソードがあったけれどね。スーコとの旅を読んだのはその次だったんだけど、すごくいとしく楽しく読みましたよ。やっぱり動物との旅というのは、いいですねえ。旅の折々の気持ちがなごむでしょう。心配なこともいっぱいあるだろうけれど。
高田 なごみます。もともと私は一人で歩いて旅をしていたんですが、ロバと旅をしてしまうと、ロバなしでは歩こうという気にはならないです。
椎名 スーコは今どうしているんですか?
高田 モロッコで別れてから、どうなっているか詳しくは分からないですが、多分元気で過ごしていると思います。
椎名 まあ、スーコにじかに電話をかけるわけにいかないしね。でも案外ドライなんですね。
高田 スーコと別れてから一か月後ぐらいに写真を見せてもらったんですよ。そうしたらまん丸と太っていて。
椎名 ああ、そうですか。じゃあ幸せなんだ。
高田 幸せに暮らしていると思います。まだ若いロバだったので、子どもを産んでいるかもしれないです。

――高田さんは北海道で作った塩をリヤカーに載せ、北海道から千葉県まで、沿岸を南下する行商の旅をちょうど終えられたところです。

椎名 今、一緒に旅してるのはクサツネ君だっけ? 彼はどこにいるの?
高田 千葉県の知人が預かってくれているので、今日は留守番です。
椎名 出かけるときちゃんと挨拶してきた?
高田 いえ、すぐ戻るからと思って、特にかしこまった挨拶はせずに来ました。
椎名 クサツネ君とは会話するんですか?
高田 あんまりしないですね。長い期間会わない時には、「元気でいろよ」みたいな声はかけますけど。「クサツネ」という名前も、旅の間はずっと一対一なので呼ぶことはほとんどないです。話しかけることはめったにないですが、草を食んだり、ぶるるっと鼻を鳴らしたり、そういったクサツネの一挙一動が会話みたいなものになっています。
椎名 スーコのときは?
高田 スーコのときも同じでした。普段はリードを引いて一緒に歩いていて、リードの微妙な抵抗で、ロバのことはけっこう分かるんです。疲労の度合いとか機嫌の良しあしとかお腹のすき具合とか。だから私もリードを引いたり緩めたりすることで、「もうちょっと頑張ろう」とか、「わかった、休もう」などと、クサツネに自分の意思を伝えていますね。リードを通しての会話でしょうか。
椎名 甘えてきたりはするんですか?
高田 結構甘えてきますね。服をくわえて引っ張ってみたりとか、ロバは愛情表現に口を使います。きっと今日も帰ったら最初は駆け寄ってきて、ふんふんふんと嗅いでちょっと嚙んで、そうしたらぷいっとどこかに行くと思います。
椎名 逆に冷たくなることはないですか? 喧嘩したり。
高田 歩きたくないときに、抵抗することはあります。でも、最終的にはクサツネのほうが折れますね。
椎名 主従の関係がやっぱりあるんですか?
高田 うーん。相棒ではありますし、友達のような、恋人のような、家族のような……いろんな面があって常に一定ではないですが、究極的には私が物事を判断する立場にあるのは間違いないです。椎名さんは旅先でもちろんロバとも接したことがあると思いますけれど、ロバの印象というか、馬とはこういう違いがあるとか、そのあたりはどうですか?
椎名 ロバは耳がすごく印象的だよね。いつも立っていて、レーダーみたいにぐるぐる回っている。「王様の耳はロバの耳」って話があるけど、ロバは耳が特徴なんだなと感じる。あれは何を探っているんですか?
高田 音には敏感ですね。歩いている時も、ちょっとした音が鳴ると、ぴって耳だけそっちへ向けるんですよ。まさにレーダーのように、全方位にくるくる動いていますね。
椎名 ロバって、蹴りはあまり強くないし、角もない、さしたる武器がないわけですよね。安い値段で売られているし、ある意味では悲しい動物なんですよね。
高田 そうですね。実際、海外の市場ではロバは驚くほど安く取引されています。
椎名 でも、ロバって旅人の荷物を運ぶのは苦ではないんですよね。本当に嬉しいかどうかは分からないけれど、いつも嬉しそうな顔をしていると思う。いいやつでしょう?
高田 いいやつです!
椎名 ロバに嫌なやつはいない?
高田 いないです! 旅の相棒としては、ロバも馬もラクダもいるじゃないですか。モロッコを旅しているときに、ラクダ使いに聞いてみたんですよ。旅の相棒として、ラクダかロバ、どっちのほうがいいかと。
椎名 動物と一緒に仕事をする人がみんな一度は考えるテーマですよね。
高田 ラクダ使いはロバだと言ったんです。「ラクダは性格が悪いやつもいる。でも、ロバはみんないいやつだ」と。私もそう思います。
椎名 ラクダとロバを比べると分かりやすいよね、いいやつ――ということになるとね。

クサツネ
栃木県生まれ、8歳の雄ロバ。好きな食べ物はイネ科の草とニンジン。名前の由来は「草と常に出合えるように」。
クサツネ
栃木県生まれ、8歳の雄ロバ。好きな食べ物はイネ科の草とニンジン。名前の由来は「草と常に出合えるように」。

高田 ラクダは顔を見れば分かりますね。人を馬鹿にした顔をするやつもいますし。
椎名 ラクダはたいていいつも何かよからぬことを考えているんだよね。スキをみて胃液を吐いてきたり嚙みついてきたり、どうも性格が悪い。
高田 上温湯隆さんの『サハラに死す』(時事通信社/ヤマケイ文庫)という本がありますが、ラクダと旅していた上温湯さんが、砂漠で荷物を持ったラクダに逃げられて、そのまま亡くなってしまうんですよね。もしロバだったらどうだったかと思いますね。
椎名 ロバも逃げるやつは逃げると思うんだけど。そのへん、駆け引きはあるんですか。
高田 実は私もトルコで逃げられたことがありますが、ロバもずる賢い部分があって、追いかけたら逃げるんですよ。こっちが歩いたらロバも歩いて、こっちがまた走って追いかけたらロバも走って逃げる。なので、一度逃げられたらなかなか捕まえられない。ただ、それは信頼関係がまだ深まってない、旅の初めの頃の話です。ずっと一緒に過ごしていると、離れるとロバのほうが不安になってしまうようで、逆に追いかけられるようになりました。
椎名 いろんなドラマが生まれそうだね。
高田 椎名さんは一緒に旅するとしたら、馬を選びますか。
椎名 馬です。馬は大体いいやつ。ロバも馬も水を飲む時とか交尾する時とか、本能的にとてもうれしそうな顔をするよね。それが可愛い。朝起きて、もしクサツネがいなかったら……なんて想像しませんか。
高田 今はしないです。たまに地面に打った杭を引っこ抜いてしまったのか、姿が見えないことはありますが、それでも遠くに行ったりせず、近くで草を食べていますね。同じ群れの中のものとして、クサツネのほうも認識してくれているんじゃないかなと思います。

椎名 誠 (しいな・まこと) 1944年東京生まれ、千葉育ち。東京写真大学中退。流通業界誌編集長時代の 76年、目黒考二らと「本の雑誌」を創刊、初代編集長に。79年、エッセイ『さらば国分寺書店のオババ』で本格デビュー。89年、『犬の系譜』で第10回吉川英治文学新人賞、90年『アド・バード』で第11回日本 SF大賞を受賞。他の著書に『武装島田倉庫』『わしらは怪しい探検隊』『岳物語』『大きな約束』、『失踪願望。』シリーズほか多数。
椎名 誠 (しいな・まこと) 1944年東京生まれ、千葉育ち。東京写真大学中退。流通業界誌編集長時代の 76年、目黒考二らと「本の雑誌」を創刊、初代編集長に。79年、エッセイ『さらば国分寺書店のオババ』で本格デビュー。89年、『犬の系譜』で第10回吉川英治文学新人賞、90年『アド・バード』で第11回日本 SF大賞を受賞。他の著書に『武装島田倉庫』『わしらは怪しい探検隊』『岳物語』『大きな約束』、『失踪願望。』シリーズほか多数。