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いちばんのモンダイは「孤立」

山友会はかつての山谷と呼ばれた町のありふれた路地の奥にあった。そこに至る道端の建物の多くは簡易宿泊所(ドヤ)で1泊2000円とか2200円などの看板がある。早い午後だったが通りをいく人や自転車なども少なく、路地の奥に10人ほどの人の姿があり、ひっそりとそれなりに賑わっているのが山友会の出入口近辺なのだった。

あとでわかったがその時間、診療所の中がいっぱいで入れず路上でぼんやり世間話をしている人は、その日行われている無料診療の順番を待っている人たちなのであった。

山友会の代表ジャン・ルボさん(1972年にカトリックの宣教師を志して来日。山友会の活動に参加、1999年より代表)と、理事をしている油井和徳さんに話を伺う。

この組織の実質的な運営全般に携わっている人で、具体的には通称「山谷地域」においてホームレス状態にある人をはじめ元ホームレスなど生活困窮状態にある人(このような人たちのことを山友会では「おじさん」と呼んでいる)に無料診療、生活相談、炊き出し、などさまざまな活動を行っている。

支援のひとつ、ケア付き宿泊所「山友荘」を油井さんに案内され見せてもらった。介助が必要だったりひとりでは生活困難な病気や障碍を抱える元路上生活者が入居している。急患などのための「一時的なシェルター」としての部屋もあるそうだ。歩いて30秒ぐらいのところに長屋ふうの2階建ての宿とも病院ともつかない建物があり、1階と2階にタタミ3畳分ほどの部屋が廊下沿いに並んでいる。

「人は孤立死、孤独死をとても辛いものと強く思っているものなのだ」〝血縁〟ではなく〝つながり〟から生まれたホームレスの共同墓〈椎名誠の死生観〉_1
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エアコン完備、テレビ付き。どの部屋もベッドが半分を占め、あとは雑多にその部屋の住人ごとにいろんな荷物が置かれている。交代で入る風呂があり、食事付き、学校給食のように毎日献立の違う食事を食堂でみんなで食べる。

ここはかつてドヤとして営業していた建物で、このあたりのドヤはどこもこんな感じのつくりだそうだ(いま外国人観光客向けのホテルに改装するドヤも増えているそうだが、3畳といえど段ボール、ブルーシートづくりの路上の仮の住まいよりははるかにいい暮らしの環境だ)。