制度利用者にもたらす負担増の側面を説明しない厚労省

2月8日に投開票が行われた衆議院選挙は自民党の圧勝で終わり、いよいよ国会の論戦がスタートする。

今後のスケジュールは2月18日に特別国会を召集し、首相指名と組閣、施政方針演説などを終えて24~26日に衆参両院の代表質問が行われる予定だ。政府と与党はゴールデンウィーク前に予算を成立させたい考えのようだが、その一方で、高市首相はあくまでも年度内の成立を目指すという報道もある。

いずれにせよ、高額療養費制度の見直し案はすでに閣議決定された2026年度予算案に組み込まれているため、まず衆議院の予算委員会に諮られた後に本会議で採決され、その後に参議院へ回される。

したがって、昨年末に明らかになった今回の自己負担上限額引き上げ幅などの見直しがはたして妥当なのかどうか、という問題は、まず衆議院予算委員会で議論されることになる。

昨年の国会では、衆議院予算委員会で高額療養費の大幅な自己負担上限額が野党議員からの質問で何度も取り上げられ、その様子は反対世論の盛り上がりとともに新聞やテレビでも再三報道された。

この当初見直し案は、2回の修正が施されて自民・公明・維新の賛成でいったん参議院へ回った。だが、参議院でも批判は止まず、結局、見直し案を一時凍結するという2025年3月7日の首相決断を経て3回目の法案修正が行われ、3月31日にぎりぎり年度内の予算案通過を果たした。

このときの通常国会では衆議院全465議席のうち与党(自民・公明)は220、と過半数に満たない状態だった。しかし、先日の衆議院選挙の結果、与党(自民・維新)は365と大幅に議席数を増やしている。

昨年の国会で首相や厚労相へ高額療養費の見直しに関する質問を投げかけた野党議員の中には、先日の選挙で落選して議席をうしなった人も複数いる。一方、議員数で圧倒する与党側は「国民のために一刻も早く予算案を通過させなければならない」という大義名分を掲げて、波風を立てず議論もそこそこに予算案通過を狙ってくるであろうことは明白だ。

与野党の議員数差を考えれば、昨年のように国会の場で高額療養費が熟議される見通しは厳しい、といわざるをえない。

数で劣る野党側が今回の見直し案に関するどのような質問をしたとしても、おそらく高市首相や上野厚労相は柳に風と受け流して、定型句のような回答に終始する姿が、今から目に見えるようだ。

その定型句の内容はおそらく、2月10日に上野厚労相が閣議後記者会見で述べた言葉のようになるのではないかと思われる。このときの記者会見で、高額療養費の自己負担上限額引き上げをとりやめる意志の有無について記者から訊ねられた際に、上野厚労相は以下のように答えている。

「見直しに当たっては、患者団体の方にも参画いただいた専門委員会において、丁寧な議論を行ってまいりました。多数回該当の金額維持や、年間上限の仕組み、これは患者団体の方からも特に強い要望があったものですが、これを新設することにしています。また、年収200万円未満の課税世帯の多数回該当の金額を引き下げるなど、特に治療にかかる経済的負担が厳しいと考えられる長期療養者や所得の低い方に対するセーフティネット機能については強化しているところですので、引き続き、このような制度見直しの趣旨を丁寧に説明していくことが必要だと考えています」

(全文は厚労省サイト「厚生労働大臣記者会見概要」(2月10日)を参照)

閣議後記者会見で質問に答える上野賢一郎厚生労働相 写真:毎日新聞社/アフロ
閣議後記者会見で質問に答える上野賢一郎厚生労働相 写真:毎日新聞社/アフロ
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だが、この言葉からは、今回の見直し案が制度利用者にもたらす負担増の側面がすっぽりと抜け落ちている。圧倒的多数の制度利用者が負担増になることや、疾患や大ケガによって収入が減少した状態で制度を利用すると破滅的医療支出に陥る可能性が高いこと、そして、低所得者層の金額引き下げはあくまでも多数回該当のみで、低所得層の自己負担上限額は悪名高い2024年凍結案よりも高い引き上げ幅になっていること等々。

これらの問題について、もちろん政権側は自分たちから言及しようとしない。おそらく、これから始まる国会論戦でも、高市首相や上野厚労相は上記の引用文のような回答を繰り返せば野党の追及をかわし切れると考えているだろう。「丁寧に説明する」という彼らの常套句は、「意見や反論に聞く耳を持たない」ということの言い換えに過ぎないのだから。