不妊予防なら助成金よりも性教育

近年の日本政府は「不妊治療」の助成に特に力を入れている。

第1次から第5次までの男女共同参画基本計画には、「不妊」という言葉が通算56回も出てくる。どうにかして「産ませたい」政府の執念がにじみ出ているようにも感じられる。

第1次基本計画の時から不妊に悩む人への相談体制が必要と認識されていたが、第3次基本計画以降は高額な不妊治療の公費助成が加わり、第5次基本計画には「医学的に妊娠・出産に適した年齢、計画的な妊娠及びその間隔、子宮内膜症・子宮頸がん等の早期発見と治療による健康の保持、男女の不妊など、妊娠の計画の有無に関わらず、早い段階から妊娠・出産の知識を持ち、自分の身体への健康意識を高めること(プレコンセプションケア)」が加わった。

WHOでは2013年の報告書(Preconception care)において、プレコンセプションケアとは母子の健康状態や取り巻く環境を改善するために〈生物医学的、行動学的、社会的健康介入を提供すること〉で、〈単なる妊娠準備ではなく、ライフコース全体の健康促進として捉えるべき〉だとしている。

しかし厚労省の成育医療等基本方針では、プレコンセプションケアを「女性やカップルを対象として将来の妊娠のための健康管理を促す取組」と定義しており、妊娠・出産させることのみに焦点を絞っている。

避妊薬や避妊具、緊急避妊薬、中絶薬が世界一高額でアクセスしにくいのに、不妊治療の助成だけ力を入れる日本政府の異様な「産ませたい」執念_1

しかし、本気で出生率を高めたいなら、多くの人に総合的な性や生殖の知識をつけてもらうほうが先ではないだろうか。

現に、生殖医療に携わる梅ヶ丘産婦人科(東京都)では、不妊治療のために来院し妊娠に至ったケースの約3分の1がタイミング療法のみで妊娠したという*1

タイミング療法とは、妊娠の確率が高まる排卵日を予測し、妊娠しやすいタイミングで性交するよう指導する方法である。しかし排卵日の予測は、排卵や妊娠の知識を身につけ、唾液観察拡大鏡(排卵チェッカー)等を使えば、特に指導を受けなくても自分たちで実行可能なのだ。

野村総合研究所による2021年の調査「不妊治療の実態に関する調査研究」によると、不妊治療を受けている人は一般の人よりも、妊娠に関する基礎的な知識を「習っていない」と答える割合が高いことがわかった。

「妊娠のメカニズム」(不妊治療当事者22.1%、一般人18.3%)、「性行為」(同27.6%、25.3%)、「不妊治療」(同52.4%、41.9%)と、いずれも不妊治療に至った人のほうが知識不足を自認していた。

つまり、妊娠の仕組みや不妊に関する知識を習得し、セルフヘルプで行う「妊活」や「避妊」がもっと広まっていけば、妊娠を自分でコントロールできる人が増えていく可能性は高まる。不妊治療の前に、包括的性教育を優先するほうが明らかに効率的だ。