疎開先“あるある”を描いた作品も…

今作『あんぱん』のような兵士目線ほか、あらゆる視点で戦争を捉えた朝ドラ作品がある。その代表的な作品4選を半澤氏に聞いた。

BEST4:戦災孤児を真っ向から扱った朝ドラ100作品目『なつぞら』(主演:広瀬すず)

2024年度前期の『虎に翼』でも戦災孤児が扱われ話題を呼んだが、同作はヒロイン・なつが戦争で辛い思いをしたというところから物語が始まり、回想シーンを含め戦中戦後をしっかりと描いた作品だった。

「あの戦争が子どもをどう追い込んだか…その事実はあまり語られていませんが、戦災孤児という重たいテーマを描いた意義のある作品でした。回想シーンでは、戦争の幼少期の描写が生々しく、音信不通の妹役の俳優を伏せたまま引っ張るなど、戦後の混乱期を描いたドラマだからこその演出もドキドキしました」

同作はアニメ草創期がメインの話で、アニメ監督の宮﨑駿や高畑勲がモデルといわれる役も登場。高畑勲の代表作『火垂るの墓』まで描かれるなど、アニメ好きも唸る展開を見せた。

BEST3:疎開者の苦悩と、戦後の昭和を作っていく若い世代からみた終戦…1997年度前期『あぐり』(主演:田中美里)

作家・吉行淳之介の母である美容家の吉行あぐりをモデルにした物語。前半部分はヒロイン・あぐり役の田中美里と、その夫・エイスケを演じた野村萬斎の好演が話題で、「エイスケさん」現象を巻き起こした作品として知られているが、「実は戦争を丁寧に描いた作品」と半澤さんはいう。なかでも秀逸なのが疎開先の目線から描かれる戦争描写だ。

「東京への空襲で焼け出されたあぐり達は田舎に疎開するんですが、疎開先の親戚一家と馬があわず、辛い思いをするシーンが長尺で描かれていました。今から30年近く前の作品なので戦争経験者の方も多数見ていたと思うと、ここで描かれたシーンは、戦時下の疎開経験者にとっては“あるある”だったのかもしれません」

さらに作家・吉行淳之介がモデルの息子・淳之介(山田純大)から見た終戦シーンも見どころの一つだという。

日本の敗戦と終戦を告げる玉音放送を聞いた淳之介は、

〈俺たち、ずっと死ぬことばかりを考えさせられてきたけど、これからは生きることを考えなきゃいけないんだな〉〈始まるんだな、俺たちの時代が〉

とつぶやく。

「玉音放送のシーンでは、国が敗れることへの悔しさややるせなさに、泣いて打ちひしがれる姿が描かれることが多いですが、若い世代に明るい未来を想像させる台詞を言わせたのが印象的でした。ドラマ全体的にもここから希望のフェーズへと展開されるなど暗い時代からの脱却が見事に描かれていました」

出征した嵩目線での戦地の様子が描かれ続けている『あんぱん』
出征した嵩目線での戦地の様子が描かれ続けている『あんぱん』