「最初にキャラクターから考える」
アニメーション映画におけるキャラクターは、実写映画における俳優のキャスティングです。つまり、作品の最も重要な要素、登場人物が魅力的か否かはキャラクターデザインの質に左右されるわけです。
シナリオを読み、キャラクターを造形していくうちに、やなせたかしは気づきます。
「キャラクター・デザインというのはいくらか自分に向いているのではないか」(同)
シナリオを読んでいくと、登場人物の顔つきが自然に浮かんできて、自分の中で生命を持った実像になっていく。自身でもびっくりするほど、キャラクター造形のアイデアが湧いて出てくる。描いたキャラクターが自分の中で生命を宿すと生き生きと動き出し、作者であるやなせたかしの想像を超えるほど育っていく。
たとえば、盗賊の娘マーディアは最初は平板なキャラでした。ところが、造形していくうちにどんどんキャラクターとしての陰影が濃くなり、重要な役に変化していく。まさにキャラクターが作者の手を離れ、勝手に育つ。
後年、アンパンマンの新作を描く時について、やなせたかしはこう明かしています。最初にストーリーは「ほとんど考えない」「キャラクターのほうを一生けんめい考える。そして顔ができて身体ができて性格ができる」「次に背景を考える。山とか川とか森とか、海とか空とか……」「するとストーリーのほうは自然にできてきます」(『ボクと、正義と、アンパンマン』PHP研究所 2022)
2300を超えるキャラクターを誇り、ギネス記録を持つアンパンマン。200体以上も生み出しているご当地キャラクターのデザイン。1970年代から2013年に亡くなるまでの間、やなせたかしの仕事の中枢にあったのが、新しいキャラクターを創造することでした。そんなやなせ流のキャラクター創造術は、「千夜一夜物語」の制作中に培われたものだったのです。
文/柳瀬博一 写真/shutterstock