キャラクター創造術の原点

主人公のアルディンが砂漠の中をカメラに向かって歩いてくる。「千夜一夜物語」のタイトル。続いて「総指揮 手塚治虫」、さらに「制作、構成脚本、原画、背景、技術の面々」そして「美術 やなせたかし 音楽 冨田勲」と出てきます。

映画のスタッフとして非常に大きな扱いだったことがタイトルロールを見るだけでも察せられます。映画を観ればわかりますが、主人公のアルディン、奴隷市場で売られていた美女ミリアムをはじめ、登場人物が見事に「やなせたかしの絵」です。背景の多くもやなせタッチが生かされている。

『千夜一夜物語』への参加はアンパンマン誕生前だった
『千夜一夜物語』への参加はアンパンマン誕生前だった

セックスシーンあり、残虐なシーンあり。現代のアンパンマンのイメージとはかけ離れていますが、当時のやなせたかしは子供向け幼児向けの絵をほとんど描いていません。むしろ色っぽい大人の抒情画を雑誌などに描いていました。そんな彼の造形力が遺憾無く発揮されています。

「ぼくはお色気がないので有名な(?)漫画家である」(『アンパンマンの遺書』)と謙遜するやなせですが、漫画雑誌『週刊漫画TIMES』の表紙を1年間担当していたときの絵を見ると、オードリー・ヘップバーンをモチーフにした実に洒脱で色気のある画風を確立していたことがわかります。

大きな瞳に無表情な口元。やなせたかしの美女たちはしばしばミステリアスです。「千夜一夜物語」の制作に参加したことで、やなせ自身は自分のとんでもない才能に気づきます。その才能は、のちにアンパンマンの大ヒットに際して大きく開花します。

キャラクターを描き分ける才能です。

主人公のアルディンはフランスの大人気スター、ジャン= ポール・ベルモンドをモチーフに、声をあてる青島幸男のイメージを混ぜました。ミリアムはこれまで描いてきた女性のキャラクターをよりアジアっぽくアレンジします。主人公の敵役になる大臣は、やなせたかしの好きな英国俳優デヴィッド・ニーヴンをモデルにしました。

さらに映画の中でメインキャラクターの役割と性格がはっきりするように、それぞれのテーマカラーを決めました。

「アルディンを太陽の子としてオレンジ系でまとめ、陰謀家の大臣をインディゴブルー系にした。顔の色までブルーである。山賊の頭目をブラックにして、片眼にざっくり傷あとをつけた。その娘のマーディアは火のような性質だから、スカーレット系の赤で統一した」(『アンパンマンの遺書』)