木村晋介という例外 

木村は、作家の椎名誠や沢野ひとしの親友であるということ以上に、硬骨漢の弁護士として知られる。オウム真理教による一連の事件では(殺害された)坂本弁護士一家の救出活動をおこない、柳美里『石に泳ぐ魚』をめぐる裁判では原告側の代理人を務めた【3】。

彼は日本共産党ときわめて密接な関係にある自由法曹団に属しているが、今から30年以上も前、当時は国会で少なからぬ議席を有していた日本共産党や社会党が「憲法9条に照らして、自衛隊は違憲である」などと主張していた1993年の段階で、自由法曹団の機関紙(団通信)に「自衛隊合憲論」(最小限の戦力保持は容認すべきだ)を投稿し、同通信のみならず、共産党の機関紙『赤旗』でも〈右転落者〉【4】として非難を受けていた。それでも彼は自由法曹団から離れず、団通信上で論戦を続けてきたのである。

評者はこれから、木村が上梓した『九条の何を残すのか 憲法学界のオーソリティーを疑う』(本の雑誌社)について、幡新大実『憲法と自衛隊 法の支配と平和的生存権』(東信堂)を用いて批判的なコラムを綴るが、この批判は「戦争に負けてよかった」と信じる集団の中で、木村が示す立場だけがほとんど唯一、「戦争に負けてよいはずがないと考えている日本人」とも議論と対話が成立し得るスタンスであるという、彼の誠実さに対する敬意に裏打ちされていることは強調しておきたい。