シスターフッドでいうと、『アナと雪の女王』が大きかった

――昨今、エンタメ重視のドラマであっても社会的なテーマを盛り込むのが普通になってきましたよね。楽しみながら視野を広げていけるのは、いいことだとも思うのですが。

山内 社会的なテーマが盛り込まれる傾向は、それだけ世の中が荒れて社会問題が顕在化しているからという背景もあると思います。SNSによって意見が共有され、映画自体も考察合戦の対象になって、作り手を刺激したはず。

シスターフッドでいうと、2013年に公開された『アナと雪の女王』が大きかったですね。それまで真実の愛=異性愛という規範でプリンセスものを作ってきたディズニーが、エルサとアナという姉妹愛も、真実の愛として描いた。ここからフェミニズムとシスターフッドの流れが世界的に生まれて、2017年の#MeToo運動で完全に潮目が変わりました。

某大物映画プロデューサーが告発され、ハリウッドがちょうど今のフジテレビのような感じになって。男性優位だった映画業界がそこから変わって、作られる作品も一気に変わりました。

この流れがハリウッドから世界中にトリクルダウンして、フェミニズムやシスターフッドが〝当たり前〟のものになっていったと見ています。

ただ一方では、「そういうのが流行っているから」という感じで、「仏作って魂入れず」みたいな作品に出くわすことも度々あって気になっています。たとえば『哀れなるものたち』(2023年、日本公開は2024年1月)という映画とか……。

山内マリコ(やまうち・マリコ)
小説家。1980年、富山県生まれ。2008年に「女による女のためのR-18文学賞」で読者賞を受賞。12年『ここは退屈迎えに来て』で作家デビュー。その他の著書に『アズミ・ハルコは行方不明』『あのこは貴族』『一心同体だった』『すべてのことはメッセージ 小説ユーミン』『マリリン・トールド・ミー』『逃亡するガール』などがある。
山内マリコ(やまうち・マリコ)
小説家。1980年、富山県生まれ。2008年に「女による女のためのR-18文学賞」で読者賞を受賞。12年『ここは退屈迎えに来て』で作家デビュー。その他の著書に『アズミ・ハルコは行方不明』『あのこは貴族』『一心同体だった』『すべてのことはメッセージ 小説ユーミン』『マリリン・トールド・ミー』『逃亡するガール』などがある。
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吉田 昨年、かなり話題になりましたよね。好きな役者が沢山参加していましたし、私も観て面白かったし好きな映画であるのは間違いないんですけれど、性加害、避妊や性病に対するフォローがなく、性に対するアプローチがやや一面的というか……言葉を選ばずにいうと、男性にとって口当たりのいい作品なんだろうなと皮肉交じりに感じたりもしました。

山内 フェミニストの人もけっこう絶賛だったのですが、私はどうも引っかかってしまって。フェミニズム的な要素が、露悪的なセックスシーンを現代に撮ることの免罪符のように機能している感じがしました。

フェミニズム要素があれば新しい感じがして、女性の観客に称賛されて賞もとりやすくなる、便利なものとしてフリーライドされている感じで。フェミニストが主体的にしているセックスなら、どんなにハードでもOK、みたいな。

吉田 映画を観たあとに原作を読んでみたんです。脚本家として脚色の凄さに驚きつつ「あぁ、そこを切り取って、そこを省いたのか」と少々モヤモヤしました。原作はリプロダクティブヘルス・ライツ(性と身体のことを自分で決めて自分で守る権利)の話が幾度も出てきます。劇場版では、その部分が広義の意味でのフェミニズムに飲まれて消えてしまっていた印象です。

山内 #MeToo運動以降、フェミニズムやシスターフッドをテーマに掲げたほうが、おそらく企画が通りやすくなっていて、必ずしもフェミニストではない人も、物語にそういう要素を盛り込むようになった。

本当の意味でフェミニズムを理解しているわけではない、理解しようともしていない作り手が、単に「今ウケるテーマ」として手を出しているんじゃないかなと、時々思います。でもそれが、メジャーになるということかも。代償ですかね。