日本人男性の精子─ 衝撃の事実

日本人男性の精子数を調査した研究報告もあります。

聖マリアンナ医科大学と国際医療福祉大学の共同研究グループは、日欧の国際共同研究を実施し、20~44歳の日本人男性324人(平均年齢32.5歳)の精子数を、ヨーロッパ4カ国(フィンランド、スコットランド、フランス、デンマーク)の男性の精子数と比較しました。

この研究では、年齢などの諸条件を各国でそろえ、さらに禁欲期間の長さの違いによる影響が出ないよう補正し、各国男性の精子数を統計的に比較解析しています。

その結果、日本人男性の精子数が最も少ないことがわかったのです。その数は、最も多かったフィンランド男性のおよそ3分の2でした。

精子の数が現代男性は祖父世代の半分以下に…「日本はフィンランド男性の2/3」最新染色体研究でわかった衝撃の事実「なぜ精子数は減少しているのか?」_5
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男性の精液中に存在する精子の数は、1㎖あたりおよそ5千万〜1億個といわれており、大きな幅があります。

正常な精子数の基準値は、1㎖あたり2千万個以上とされています。ここでご紹介した研究論文では、不妊ではない男性を調査対象としているため、現時点での減少率はその男性の生殖能力に支障をきたすものではないかもしれません。

ですが、精子数が減少傾向にあることは紛れもない事実で、さらに2000年に入り減少率が加速化していることから、近い将来、男性の生殖能力に大きく影響することが危惧されています。

なぜ精子数は減少しているのでしょうか?

その原因は、睡眠不足や栄養状態などの生活習慣によるもの、ストレスなど心因的なもの、環境ホルモンなどの環境要因など、いくつか考えられていますが、はっきりしたことはわかっていません。

ヨーロッパでは、今や精子数の減少が深刻な社会問題となっており、日本も他人事ではありません。

長期的なメタ解析が実施されること、さらに、Y染色体や遺伝子の影響も含め、精子数の減少と不妊についての医学研究を進めることは、少子化という大きな課題を抱えた日本にとって急務でしょう。


文/黒岩麻里 写真/shutterstock

『「Y」の悲劇 男たちが直面するY染色体消滅の真実』(朝日新聞出版)
黒岩 麻里
『「Y」の悲劇 男たちが直面するY染色体消滅の真実』(朝日新聞出版)
2024/5/20
1,980円(税込)
256ページ
ISBN: 978-4023323643

今も、身体から刻一刻と失われているY染色体。これは人類の危機⁉ 
「喫煙・加齢で男性が“女性化”?」「性は2つとは限らない」「男児出産で“Y”をもつ人生が始まる」「Y染色体減少で疾患リスク増大!?」など「Y染色体消滅説」から「新しい性の概念」まで、生物学の最新研究から人類最大の危機(!?)に瀕する男の弱さとしぶとさに迫る。
世界中の科学者を虜にする、謎多きY染色体の沼にハマれば、あなたの中にある「性」の概念も覆える!
多様で柔軟な「性」の姿に出会える一冊。

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■第2章 Y染色体の消えゆく運命——現在進行形の見えざる恐怖
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■第3章 そもそも性って何?——素晴らしきその多様性
そもそも「性」は存在しなかった/「性」の誕生――一倍と二倍の繰り返し/生物学的にも性は2種類とは限らない/2つの性がうまれた理由/雌雄は別個体でなくていい/第3の性/4つの性をもつ鳥/雌雄は別個体でなくていい/超遺伝子! スーパージーン!! /3種類のオス/個体の性は普遍的ではない/何度も性を変える魚/性を決める要因/出会いも決定要因に/多様な性の在り方/メスだけで子孫を残す最終手段/有性と無性のはざま/哺乳類はメスだけで子が残せない

■第4章 新しい性の概念——科学的に示される〝バリエーション〟
バイナリー ―男か? 女か?― という概念/性染色体のバリエーション/そもそもX染色体は1本しか使わない/X染色体の遺伝子の多くは脳で働く/遺伝子による性のバリエーション/ホルモンによる性のバリエーション/長く使われてきた不適切な言葉/SOGIESC(ソジエスク)/ゲイ遺伝子の謎/膨大なゲノム解読が謎に迫る/遺伝子の影響は大きくない!? /性自認はホルモンか? 遺伝子か?/科学的な理解が真の理解に/「オスらしい」メス、「メスらしい」オス/筋肉が必要だ!! /Yを捨てた日本のネズミ/新しい性決定スイッチの獲得/バリエーションの意義

■第5章 寿命の性差を検証する——なぜ男性は女性より短命なのか
海外から見た「65歳定年」/なぜ日本人は長寿なのか/男女の寿命――なぜ女性は長生きなのか/コレステロールとホルモンの関係/男性に少ない長寿ホルモン/動脈硬化を抑える女性ホルモン/男性ホルモンがないと長生きできる?/100年生きた宦官/基礎代謝の男女差/女性は飢餓に強い?/過酷な状況下での乳幼児の男女差/通院率の高い女性、健診率の高い男性/飲酒は男性が多い/寿命の要因は複雑?

■第6章 性差か、個人差か——脳の男女差を考える
パンデミックと性差/若年女性の自殺の増加/ストレスとの付き合い方/「男性脳」VS「女性脳」/脳に性差はあるのか?/性染色体と脳の関係/性差よりも個人差が大きい/ジョエルの「脳モザイク」/大人になっても脳は変化する/ジェンダー・ギャップと脳/ニューロセクシズム/アンコンシャス・バイアス/ジェンダーレスとY染色体

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