性行為ができない、したくない夫婦の新しい妊活
厚労省によると、2023年の出生数は過去最少の75万8631人。前年と比べて減少率は5.8%で、1983年の約150万人からほぼ半数となるなど、人口減少に歯止めがきかない状況だ。
その背景には婚姻数の減少や子どもをつくらない選択をする夫婦の増加、不妊症のため性行為に及んでも妊娠成立しない、などさまざまな要因がある。その一方で、子どもが欲しくても「共働きで性交渉する時間がとれない」「そもそもパートナーと性交渉をする気が起きない、したくない」という理由から子作りに励めない夫婦も少なくない。
愛知県名古屋市の「咲江レディスクリニック」の丹羽咲江院長は言う。
「妊娠成立にはいろんな方法があります。性交渉によって着床する自然妊娠のほか、医療クリニックなどで行う人工授精や体外受精、その中の一種で顕微受精、そして将来を見据えた卵子凍結などさまざまな方法があります」
集英社オンラインは過去に「あやまんJAPAN」のあやまん監督が、この「顕微受精」を行なったことを取材しており、名古屋の伝説のキャバ嬢で現在は銀座のクラブのホステスを務めるエンリケこと小川えり(36歳)も「卵子凍結」を行なっている。
そんな中、近年注目されているのが「シリンジ法」だという。シリンジ法とは、シリンジ(針のない注射筒)で採取した精液を、女性自ら膣内に注入する方法で、セックスすることなく妊娠することを目指すもの。心身、経済的な負担が少ない面でも双方へのメリットが大きい。
38歳の真田麻美子さん(仮名)もシリンジ法で第二子を授かり、現在、妊娠8ヶ月だという。
「ひとつ年上の旦那は『子どもは1人で十分』という考えでしたが、私はどうしても2人目がほしくて……。
この“2人目どうするか論争”は話が煮詰まりすぎて、『お互い悔いのない人生を過ごすためにはどうしたらいいか』なんて話にまで発展したり、ウンザリした旦那が「もう離婚して俺が精子バンクに精子を預けるから、それでつくってくれない?」と言いだしたり、とても大変でした。
結局、会社員を辞めて起業したい旦那を私が応援することを条件に、2人目が欲しいという私の願いを夫がようやく受け入れてくれました。話し合いが決着するまで2年はかかったかと思います」
そうして始まった妊活だが、すぐに問題にぶつかってしまう。
「当初は自然妊娠を目指していましたが、旦那に性交痛があることから、自然妊娠は諦めました」
性交痛とはセックスの際に性器に覚える痛みで、女性に多い症状だが、男性も例外ではない。「痛いのに行為を強いるのはかわいそうだな」と真美子さんが調べるうちにたどりついたのがシリンジ法だったという。
「うちは共働きで、夫は深夜帯に帰ってくることも多く、行為の時間をつくることもハードルのひとつでした。それがシリンジ法の存在を知って、だいぶ気が楽になりましたね。
さっそく10回セットのキットを購入し、毎週土曜日はシリンジ法で妊活する習慣をつくりました。
夫が朝一番に精子を採取したら『置いといたよー』と声をかけてくれるので、私がそれを自ら注入するという流れ作業のような感じです。お互いの精神的な負担や時間的な制約もなくて、しかもそれでうまく妊娠できたので本当にありがたかったですね」
しかし、夫は「おめでとう」と言ってはくれたものの、喜びを共有してくれたわけではなかったようだ。
「性別が女の子だってわかったとき、『へ~』とまるで他人ごとというか、とくに喜んでる様子はありませんでしたね。
旦那には弟がいて、兄弟仲があまりよくなかったようで。だから2人目に興味がなかったのかもしれません。でも2人目の子どもは私が悔いのない人生を送るための望みだったから別にいいんです。
私も旦那に対して『望みを叶えてくれてありがとう』なんて思いませんしね。
ちょうど年齢的に最後のチャンスだったから、間に合ってよかったという気持ちです」