あなたの身体でも消えはじめた「Y」

最近の研究から、ヒトの進化といった大きなスケールではなく、実際に男性の身体中の細胞から、すでにY染色体が消失し始めていることがわかっています。

一般的な男性の細胞の中には、X染色体1本とY染色体1本を含む、合計46本の染色体が存在しているはずです。

しかし、これらの細胞からY染色体が失われ、性染色体がX染色体1本のみの45本となる現象があり、「モザイクY染色体喪失」とよばれています(図2-4)。

図2-4;モザイクY 染色体喪失とマイクロキメリズム。(左)男性の細胞からY 染色体が失われていくモザイクY染色体喪失。(右)胎児と母体の間で細胞の移動が起きるマイクロキメリズム。胎児がXY の場合、母親にXY の細胞が、胎児にXX の細胞が移動する。図/朝日新聞メディアプロダクション
図2-4;モザイクY 染色体喪失とマイクロキメリズム。(左)男性の細胞からY 染色体が失われていくモザイクY染色体喪失。(右)胎児と母体の間で細胞の移動が起きるマイクロキメリズム。胎児がXY の場合、母親にXY の細胞が、胎児にXX の細胞が移動する。図/朝日新聞メディアプロダクション
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この現象について、国内では、国立成育医療研究センターの深見真紀博士らの研究グループにより、精力的に臨床研究が進められています。

「モザイクY染色体喪失」は、もともとは男性の老化現象のひとつと考えられていました。

若い頃の細胞はY染色体を保持していますが、加齢とともにY染色体が抜け落ちていき、70歳以上の一般男性のうちの1割以上は、Y染色体が消失した細胞をもつ、といわれています。

血液中の細胞を調べた研究報告では、70代の男性ではおよそ30%の血液細胞でY染色体が失われているのに対し、80代の男性だと約50%、80-90代だと約90%にもなり、ほとんどの細胞でY染色体が失われていることがわかっています。

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 この現象が発見された当初は、高齢男性に限った現象であると考えられていました。しかし、研究が進むにつれ、そうではないということがわかってきたのです。

深見博士らの研究グループは、モザイクY染色体喪失が胎児期や小児期、青年期など、様々な年代でも起きていることを報告しています。

また、喫煙によりY染色体の喪失頻度が増加することも知られており、何らかの環境要因が直接的に細胞に影響してY染色体が失われるのではないか、とも考えられています。