北朝鮮とうまくやれば韓国は「メンツをつぶされた」
2月16日の金与正氏の談話は、日本が北朝鮮の核戦力開発と拉致問題を言い立てないなら「(日朝)両国が親しくなれない理由がなく、首相が平壌を訪問する日もあり得る」と表明した。
金与正氏の談話は、北朝鮮の対外的な発表としては金正恩氏の演説や発言の報道の次に高い権威をもつ。これまで米国と韓国に向けては出されてきたが対日関係では初めてで、2011年末の金正恩体制発足後、最も格式が高い対日メッセージと言える。
ただ金与正氏の談話は方針の表明ではなく、観測気球的な性格が強い。過去の談話では、一方的に譲歩を迫りながら、相手が応じないと反故にしたものもあった。今回、拉致問題は「解決済み」だと牽制しており、林芳正官房長官はこの認識は「まったく受け入れられない」と打ち返した。
今後、日朝が高官級協議、さらには首脳会談に進むのか、それとも北朝鮮がこの歩み寄りを「なかったこと」にするのか、せめぎあいはこれからだ。
ところがここで、「勝手なことをするな」と口をはさんできたのが韓国だ。ほかでもない対北交渉担当部署とされてきた統一部でトップを務める金暎浩長官が、金与正氏の談話に対し「北はソウルを経ず、ワシントン、東京へは絶対に行けない」と主張した。
「日朝関係の改善が韓国と米国、日本の3か国協力を揺さぶるのではないか」との質問に対して、こう答えたのだが、なんとも噛み合っていない。
韓国の横やりはこれが初めてではない。日韓関係を取材する大手紙記者が言う。
「昨年5月、岸田首相が日朝首脳会談実現のための高官級協議を行ないたいと表明した直後も、韓国の外交官は『岸田さんは何を考えているんだ。尹錫悦大統領が不快にならないと思っているのか』と岸田氏への不満をぶちまけていました」
実は韓国は「政権が保守か革新かを問わず、北朝鮮が西側社会と対話をするなら同じ民族である自分たちが先頭に立って行なわなければならない」との“信念”を持っている。
北と融和的で民族主義が強い革新政権なら米国や日本が自分たちの知らないところで北とうまくやれば「メンツをつぶされた」と考えるのは当然だが、北に敵対的な保守政権でも対北接触を他国に出し抜かれると、「同じ民族なのに何をやっているんだ」と叱責してくる世論があることが背景にある。
北に融和的だった文在寅前政権を非難し、北を「主敵」として圧力を強めてきた尹政権だが、それでも他国に北との対話を出し抜かれるのは気分が悪いらしい。
韓国では北朝鮮に拉致され帰還できていない被害者が500人を超えるが、政府や市民の関心は低い。最近になって北朝鮮を非難する材料として大統領が直々に被害者家族に会うなどのパフォーマンスを始めたが本腰を入れるには程遠い状況だ。
日本人拉致問題の解決を上位の外交目標に置く日本が解決のために北と接触を図ることに、自国民の拉致問題を長年放置してきた韓国から指図されるいわれはない。