大統領選を控えたアメリカの思惑
尹錫悦大統領は昨年の日米韓首脳会談などを通じ、3か国で北に共同対処する態勢を強化したことを政権の最大の評価として誇っている。
「それだけに北と日本の接触はこの3か国協力に穴をあけるとの不安を尹政権は持っています」(韓国メディアの外交担当記者)
ところが肝心の米国は、「(北朝鮮との)あらゆる外交と対話を支持する」(ジョン・パク北朝鮮担当特別代表)と言い始めた。11月の大統領選までは北朝鮮に騒ぎを起こしてもらいたくない米国は、日本との対話が続くなら北朝鮮は大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射など過激な軍事的デモンストレーションを自制するだろうとの期待をもっており、韓国は米国のこの態度に困惑しているのだ。。
一方で米軍は3月4日、韓国軍との合同演習「フリーダム・シールド」を始めた。米国の行動は矛盾するようにも見えるが、これには複雑な事情がある。
「北の核能力が向上する中で、韓国内でも核武装すべきとの声が高まっています。米国は同盟国であっても核保有国が増えることは絶対に避けたいと考えており、韓国を防衛する意志を示して韓国世論を抑え込むためにも軍事演習を続ける必要があるのです」(北朝鮮ウォッチャー)
その横で韓国当局は、米戦略爆撃機や原子力空母が14日までの演習中に韓国に展開すると韓国メディアにリーク。3月中に部隊の野外機動訓練を昨年の2倍を超える48回行なう予定だとも報じさせ、意図的に北朝鮮との緊張を煽っている。
この先、北朝鮮が黙っていることは考えにくく、弾道ミサイルの発射などによる威嚇で応じれば日朝の対話には障害が増える。
「日朝間では2月28日に国立競技場でパリ五輪出場をかけた女子サッカーの試合が行なわれましたが、双方が好ゲームだったとたたえあい、その前後には日朝国交正常化推進議員連盟の衛藤征士郎会長が朝鮮総連の幹部と複数回面会しています。
さらに試合翌日には総連幹部の一人が都内の会合で、『最近の日朝関係には一条の光が見える』と発言しました。接触を模索する動きは続いています」(全国紙社会部記者)
敵視を強める北朝鮮に強硬一本やりの韓国。北朝鮮との交渉を模索する日本。大統領選までは平穏を願う米国…。四者の思惑が交錯する朝鮮半島情勢は今後一層複雑になりそうだ。
取材・文/嵯峨哲太郎
集英社オンライン編集部ニュース班