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内部文書から探る、拉致問題解決の糸口

北朝鮮は頑(かたく)なに拉致問題は「解決済み」との主張を変えようとしない。それでも、来るべき本格交渉に備えて政府は引き続き情報収集や分析に努め、いまだに判然としない拉致事件の全容を把握する努力が必要になるだろう。

内閣官房拉致被害者・家族支援室が2004年に、2002年に帰国した5人の被害者から聞き取りを行い、その内容を中心に分析を加えた内部文書は、過去の北朝鮮の動向を分析するうえで貴重な資料と言える。その内容をみていきたい。

「蓮池・地村夫妻は12011〜12014」北朝鮮当局が拉致被害者に付与した謎の番号が示す、“隠された日本人”の可能性「認定外の被害者は当然いる」_1
拉致被害者などについて再調査する「特別調査委員会」の看板が掲げられた建物=2014年10月29日、平壌(©︎朝日新聞社)
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文書によると、日本人拉致を発案・実行、北朝鮮での被害者管理に関わった工作機関は、朝鮮労働党の対外情報調査部、作戦部、統一戦線部、社会文化部(後の対外連絡部、現・統一戦線部225室)の4機関で、総称として朝鮮労働党の「3号庁舎」と呼ばれた。このうち、実際に日本人拉致を実行したのは、工作船などを使って工作員を日本に送り込んでいた作戦部。拉致被害者が生活する招待所の運営を行っていたのは対外情報調査部だった。

対外情報調査部のなかで対日工作は第2課、工作員教育は第5課で、被害者5人が日本に帰国した際、「朝鮮赤十字会」の職員として来日した北朝鮮の随行団のなかには、対外情報調査部の幹部が含まれ、5人の言動に目を光らせていたという。このため、5人は帰国当初、記者会見の場などで硬い表情を崩さず、不用意な発言をしないように心がけていたのである。

では、実際にどれだけの日本人が北朝鮮の工作機関により拉致されたのだろうか。日本政府が認定するのは帰国した5人を含めて17人だ。だが、文書の内容は、実際には把握できていないより多くの被害者がいる可能性を示している。

作成者は次のような考察を記している。「両家(蓮池さん夫妻、地村さん夫妻)の以前に約10名の拉致被害者がいたということも考えられる」。