ふだん出ている作品と全然違うアプローチができた
──クランクイン前に準備されたことは?
常々、特別な準備をしない状態でのアプローチを心がけています。準備しちゃうと勝手にそのレールに沿っちゃう懸念があるので。そうなると何か違和感があるんですよね。
もしかしたら準備万端のほうがきれいにまとまった作品になるのかもしれない。でも私は、なぜかその綺麗なものにずっとなじめないんです。追い求めてるものが結構、困難な方向を選んでいるのかもしれません。でもいつかそれを、一つのもの、一つの形として私なりにつかみきれたらいいなと思ってるんです。
──撮影中はいかがでしたか?
今回の映画は『一月の声に歓びを刻め』というタイトルなのですが、発声的に声のボリュームを気にしないでいい作品って実はあんまりなくて。技術的な話になりますが、私の場合、ささやきのような発声で音声さんが聞き取れないから、何度もテイクを重ねることがときどきあったこともあり……。
でも、今回の役に関しては、特にそれを求められることがなかったんですね。発声としてボソボソってなってしまっても監督がそれでいいとしてくださったので、ある意味、出ている作品と全然違うアプローチができたなとは思っています。
それらも含めて本当に監督の懐の広さを感じています。普通だったらウィスパーボイスみたいな表現をすると最初から止めに入ると思うんですよ。「もうちょっと声張って」とか「アプローチ変えて」って言われると思うんです。
私、演じる役によって、毎回声の大きさとか喋り方の微妙な調整は感覚的に現場でやってみないとわからなくて。でも、今回演じた、れいこに関してはマックスまでの声を張らなかったというか。それもやってみて初めて自分でつかんだニュアンスでした。
多分、監督もそのテンションを察知され、きっと「これでいい」と思ってくださり、本作の映画のタイトルにしても、それらの演技の色味をふまえて考え直してくれたようでした。
──“〜声に歓び〜”ですもんね。映像でも、ジム・ジャームッシュ作品などを彷彿とさせるようなモノクロームの映像がまた何とも言えない効果でした。
そうなんですよ。モノクロかカラーか、監督はギリギリまで悩んでいらっしゃいましたが、本当に素敵なスパイスになっているんですよ。
監督の演出を一度味わうと、そりゃあ心から大好きになるわっていう感覚で、本当に彼女は愛に溢れた映画人だなって思っています。
彼女の頭の中には果たして何本の映画が入ってるんだろう?って。撮る度ごとに「このシーンはあの映画のあそこのスパイス」とかってすぐに思いつく方なので、なんだか映画の先生みたいな存在だなとも思ってます(笑)。