名義上の土地所有者は日本企業(日本人の役員一人)

「合同会社など別会社をつくるのは、税務対策や倒産隔離が理由です。事業者責任が争われるようなトラブルに発展したとき、直接の事業者(合同会社)を倒産させることで、投資家に追加の補償が求められることを防ぐことができます。カムフラージュの効果も期待できます」

合同会社は資産の流動性を促し、投資を呼び込みやすくするとともに、出資者の秘匿性も確保できる。

事業者にしてみれば、不測の事態に備えて、こういった二枚腰的な事業システムとすることは、当たり前の選択肢にすぎないというわけだ。予測不可能な事態が生じたとき、身を守るために最適の事業スキームであるからだ。

西郷村のケースについて整理してみよう。620ヘクタールの土地所有者は資本金300万円、役員一人の西郷ソーラ発電株式会社という法人で、その土地に上海電力の孫会社である資本金1万円の株式会社P社と、資本金100万円のN合同会社が23年間の地上権を設定して、メガソーラー事業を行っているというものだ。

この場合、事実上の事業の采配者(支配者)は上海電力と見られるが、名義上の土地所有者は日本企業(日本人の役員一人)であり、地上権は孫会社の株式会社P社とN合同会社が有しているため、政府の統計上の扱いでは、「外国人・外資及び外資系法人による国土取得」には該当せず、したがって注目されにくいのである。

住民側の要望・約束は置きざりで泣き寝入り…上海電力が福島県でメガソーラーをやりたい放題、噛み合わない両者の話し合い_2

我々のせいではないと力説

上海電力日本が各地の発電プロジェクトの推進に細心の注意を払い、慎重であることは、この日の地元議員とのやりとりでもわかった。

上海電力日本の現場事務所で、地元西郷村の大竹議員はこう訴えた。

「昨年夏の大雨のとき、開発のせいで道路が川になったんです。下流の用水路や農地に土砂がここにこう流れ込んできて、大変だったんですよ」

低いテーブルに置かれた地図を前に、ガイド役の合同会社幹部は即座に切り返した。

「それほどの被害はなかったと思いますが。流域が我々のところ(開発地)とは別の場所ではないですか?」

住民を代表しているから彼女も食い下がる。地図の場所を具体的に指さした。

「いや、ここのところの道路が川になったんです。その泥が田んぼにも入って……」

しかし、上海電力日本側は認めない。

「流域の傾斜はこうで我々の地区からは別の方向に流れていっています。傾斜の向きがちがうのではないですか」

本社幹部がそうダメ押しした。我々のせいではないと力説しているように私には感じられた。針の穴さえ通させない、蟻の一穴とさせてはならない。そこに企業としての強い意志を感じた。

「そうではないのですが……」