天才造形作家の若さゆえの過剰表現

人間に化けて何をするのかもよくわからないのがまた怖いんですが、男所帯の魔女狩りですから容赦ないわけですよ。ダイナマイトと火炎放射器で群れの頂点に立った主人公は、疑わしい奴ら…自分とひとりだけ信用できそうな子分以外全員、死んだやつも含めて縛り上げて、採取した血液に火炎放射器で熱した針金を押し当てます。“あいつ”が化けている個体であれば血の一滴に至るまで“あいつ”だから針金の熱に反応するんだという方便なんだけど、見つかったらどうするんだろう、みんな仲良く並んでソファーに縛られてて、隣の奴が実は“あいつ”だったら最悪じゃん…ってドキドキしながら見てると、案の定最悪になるわけですよ。

胴体に開いた口が食いちぎった腕を咀嚼し、触手がのたうちながらあふれ出て、臓物が吹き上がる! 人体破壊と顔面崩壊の頂点 【『遊星からの物体X』その1】_2
『遊星からの物体X』 主演は熱血漢役を得意とするカート・ラッセル
©Capital Pictures/amanaimages

しかもなぜか正体がバレると、“あいつ”はそれまで巧妙に偽ってきたその姿がメチャメチャに崩れて、おそらくそれまで同化していた生物がデタラメに出てきちゃうのか、正しい理屈はわからないし言語化もできないけど、まあ人間や犬がとんでもない形になっちゃうんですよ。そもそも“あいつ”は正体というものが存在しない、擬態のみで外見が成立しているんだけど、そこはデザイナーというか造形作家の美学がビシーッと貫かれているのですよ。

ロブ・ボーティーン。
第7回の特殊メーキャップ回――変身する人間たちの回で紹介した『ハウリング』(1981)で、狼男変身のプロセスにおいて革命的なアプローチを、わずか20歳でなしえたのがロブ・ボーティーン。

若さのなせるわざなのか、そのやり過ぎさ、過剰な表現が、観るものの常識を揺さぶり、覆します。その時代に横溢していた人体破壊、というか顔面崩壊が『遊星からの物体X』で頂点に達します。疑心暗鬼の果ての乱闘の末、意識を失った越冬隊員を診察台に載せて蘇生処置を行なう医師。電気ショックの端末を胸に当てた途端に、患者の胸から腹にかけて真一文字に裂けて、開口部に並んだ巨大な歯で医師の腕を食いちぎります。