巻き込まれ型のプリンス役がピッタリ
──『大名倒産』(2023)は浅田次郎氏の原作小説の映画化。貧しい鮭売りから突然、越後丹生山藩の若殿となる青年・松平小四郎役を神木隆之介さんが演じられました。藩が抱える借金100億円を押し付けられた崖っぷちのプリンス役が、コミカルでチャーミングです。
前田(以下同) 「主演は神木さんですよね」と提案してくれたのはプロデューサーですが、どう考えても、神木さんしかいないですよね。
巻き込まれ型のプリンスぶりがピッタリだし、ピンチに陥るけれども、なんとかそれを逆転するポジティブさは、神木さんのイメージ通りだと思いました。
──監督が神木さんとお仕事をするのはこれが初めてだと思います。映画製作者として、神木さんはどんな俳優に映っていましたか?
相手の気持ちにいつも寄り添ってくれるような、共感力が強くて、親しみあふれる感じですね。ルックスだけでなく、ご本人が持ち合わせている人間的な魅力を含めてスターのポジションに立っている。すごいことだと思いますね。
──実際に演出をしてみて感じた、俳優としてのすごさは?
天才だと思います。まず、アイディアがすごいんです。もちろん僕は演出家としていろんなことを事前に考えて撮影に臨みますが、もっとよくする“何か”が必要だと考えているシーンについて、「こうしてみたらどうですか?」と、素敵な提案をしてくれる。演出家と同じように、映画全体の流れを見ることができる人なんです。
もちろん、俳優さんは自分が演じるキャラクターのことを中心に考えていていいんです。でも神木さんは、キャラクターを踏まえた上で、俯瞰でも作品を見ていると思います。
──シーン全体だけでなく、演じるキャラクターの細かい心情などについても提案されることはあったのでしょうか?
撮影の前の本読みでは感情の流れを1ページずつ追っていくんですが、こちらが考えているのはしょせん、机上での小四郎なんですよね。撮影が進むにつれて生身の人間としてどんどん小四郎になっていく神木さんから、「このセリフは、こう言ったほうが伝わると思うんです」と提案されることは多々ありました。
建物を建てるときと同じで、台本という設計図をもとにしつつも、今までの流れとその場の雰囲気でライブ感を活かしていく臨機応変さが必要。それができる人なんです。
──神木さんを、ひと言で表現するとしたら?
“万能”ですね。トランプで言えばジョーカーみたいな人。すべてのカードになれるんです。お芝居はリアクションだし、コラボレーションだと思うんです。神木さんは相手の役のことまで目がいくし気遣えるから、小四郎を中心に、他のキャラクターみんなが輝くんです。神木さんとお芝居をした人がパッ、パッ、と咲いていくイメージ。
共演者だけでなく、スタッフに対する気遣いもすごかったですね。声のかけかたひとつとってもすごくさりげなくて自然。お芝居ができる天才である上に、誰に対しても同じように気遣えるから、最強なんだと思います。
──座長の神木さんを中心とした、現場の雰囲気のよさが伝わります。
彼を昔から知っている人はみんな言いますよ。全然変わらないって。京都での撮影中は、宿泊先の旅館から撮影所に、自転車で通っていましたから。