時間も守るし、予算も守る

──お金をテーマにした映画ですが、映画製作も限られた予算の中でどう作るかの戦いだと思います。

そこは工夫とアイデアですよね。僕はデビューしたときに相米慎二監督に言われたんです。「小さくまとめようとするな」「器用に映画を作るな」って。でも僕は助監督の経験値があるから、限られた予算と時間で収めるやり方は体に染み付いているんです。

だから気をつけないと時間と予算に応じて、小さくまとめてしまうことがあるんです。時間と予算を守れるのは、僕の強みであり、甘さでもあると思います。

──素晴らしいことだと思いますけどね。

結局、撮影が押したり、残業をすると集中力が失われていくし、次の日に響く。準備パートのことを考えるとなるべく早く撮影は終わったほうが、効率的なのです。

今回、インターンの学生が8名参加したのですが、みんな撮影が楽しくてしょうがないって言ってましたね。朝は早いですが、夕方過ぎには撮影終わって、京都の美味しいご飯を食べたり、自分の時間を少しでも持てて、みんな幸せだったのではないでしょうか。

──そもそも、監督が映画監督を目指したのはいつだったのでしょう?

小学生のときです。雑誌「ロードショー」と「スクリーン」が当時の愛読書で、4年生のときにはすでに映画の世界に入ると決めていましたね。

スティーヴ・マックイーンが僕のヒーロー。リチャード・ウィドマークもバート・ランカスターもポール・ニューマンも好きでした。日曜洋画劇場とかゴールデン洋画劇場を見た次の日には、映画のマネをしてくれる唯一の友達と一緒になって、ほうきをライフルに見立てて演じたりしていました。

クラスメイトはみんなグラウンドでボール遊びしてるのに、『大脱走』(1963)のマネをして机の下に潜ったりしてね。楽しかったな。

その後、雑誌の「LIFE」が映画の記事をまとめた「LIFE GOES TO THE MOVIES」という本を、お年玉を蓄えて購入して、オフショットのスチールにスタッフが写っているのを見たときに、自分はスタッフ側だと思ったんです。


──今も、映画を一観客として楽しむことは?

見なきゃいけないものを見るっていう状況ですが、映画に浸りたい気持ちはいつもありますね。映画館という空間が大好きで、意識が没入できるのがいいですよね。

──監督にとっての今の映画スターは? いくら予算をかけてもいいと言われたら、誰で映画を撮ってみたいですか?

え! やっぱブラピ(ブラッド・ピット)とジョニデ(ジョニー・デップ)かな。あと、女優さんで……、名前出てこないな。ミュージシャンの娘さんで、なんとかコリンズ……。リリー・コリンズ!

『あと1センチの恋』(2014)はいいですよね。あの太い眉毛が個性的で好きです。

──彼女を主人公に映画を撮るとしたら?

アニメ好きのオタクなヒロインが、日本にアニメを学びに来て騒動に巻き込まれていく、ラブサスペンス・ファンタジー……どうでしょう(笑)。

──いつか見てみたいです!





取材・文/松山梢

前田哲(まえだ・てつ)
撮影所で大道具のバイトから美術助手を経て、助監督となり、伊丹十三、滝田洋二郎、大森一樹、崔洋一、阪本順治、松岡錠司、周防正行らの作品に携わる。1998 年、相米慎二監督のもとで、オムニバス映画『ポッキー坂恋物語 かわいいひと』で劇場映画デビュー。2021 年には『老後の資金がありません!』『そして、バトンは渡された』で報知映画賞監督賞を受賞。主な監督作品に『パコダテ人』(2002)、『棒たおし!』(2003)、『陽気なギャングが地球を回す』(2006)、『ドルフィンブルー フジ、もういちど宙(そら)へ』(2007)、『ブタがいた教室』(2008)、『猿ロック THE MOVIE』(2010)、『極道めし』(2011)、『王様とボク』(2012)、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(2018)、『ぼくの好きな先生』(2019)など。2023 年は本作に加え『ロストケア』『水は海に向かって流れる』と立て続けに監督作が公開となる。

『大名倒産』(2023) 上映時間:2時間/日本

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6月23日(金)より全国公開
配給:松竹
© 2023 映画『大名倒産』製作委員会
公式サイト :movies.shochiku.co.jp/daimyo-tosan/ 
公式 Twitte :@daimyo_tosan