メタモルフォーゼしていくのが映画製作
──トップに立つ人間の苦悩や覚悟、責任も描かれていますね。
この映画で僕が描きたかったことのひとつはリーダー論です。人の上に立つ人間はどういう意識でいるべきかなど、今の日本の問題を含めたいという思いはありました。
汚職とか癒着はどんな時代にもありますが、浄化していかなきゃいけないし、人の上に立って政をする人には、襟を正してほしいです。
──笑えるコメディ映画でありながらも、根底には社会に対する問題提起が流れている。
そうですね。未来に向けた映画を、現代を生きる人に届けるわけですから。
──前田監督は、現在公開中の『水は海に向かって流れる』(2023)をはじめ、『ロストケア』(2023)、『そして、バトンは渡された』(2021)、『老後の資金がありません!』(2021)、『そんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(2018)など、話題作を数多く手掛けています。
社会への問題提起はすべての映画に通底しています。ただ、どういう形で届けるかを考えたときに、やっぱり映画としておもしろいものじゃないといけない。描き方は題材によりますし、物語のテイストにもよると思っています。
──監督も、多くのスタッフの上に立って映画を作る立場です。現場で心がけていることは?
僕ひとりで考えたイメージを、みんなにどう超えてもらえるかということは意識しています。キャストやスタッフの工夫とアイデアと知見がプラスされれば、さらに豊かな作品になるわけです。それはカメラワークでも小道具でもどのパートにも言えることです。
特に俳優さんはそうですよね。映画を見る人は俳優さんの言葉と動きを見て聞いているわけだから、どういう表情をしたか、どう表現するかということが重要になります。
「そうか、こう来たか!」という予想を超える芝居には驚くし、僕が思わず吹き出したということは、観客にとってもサプライズになるわけです。そうやってメタモルフォーゼしていくのが映画だと思うので、なるべくイメージを押しつけず、どう自由な発想で演じていただけるかを楽しみにしています。
──主演の神木さんだけでなく、石橋蓮司さん、佐藤浩市さん、浅野忠信さんなどのベテラン俳優たちが、変顔も辞さない熱演を見せているのもサプライズでした。
コメディは表情を含めたケレン味をどこまで出すかが考えどころになります。下品にならないことが一番大切でありつつ、やりすぎていいときと、寸止めがいいときがあり、俳優さんによっては「そこまでやるの!?」と思う場面もあるわけですよ。
その塩梅は非常に難しいのですが、みなさん楽しんで演じてもらったので、それが観客にも伝わると思います。