アメリカに息づく欧州中世文化
晩餐会は5日間にわたる一大イベントと化しており、ジャーナリストと権力の慣れあい(too cozy)と批判されてきた。報道各社ごとのテーブルにビッグなゲストを呼ぶ招待合戦も激しくなる一方だ。
にもかかわらず、閉鎖的記者クラブを固定化させ、メディアトップが秘密裏に総理と食事をしている某国の国民から見ると、やはりうらやましい慣例だ。
シェークスピア時代の欧州では王国が雇用する宮廷道化師(court jester)が直言御免で王や社会を批判した。その最大の武器は笑いだった。鋭い風刺と諧謔でその場を動転させ、「異化」する。そして宴が終わると、また「日常」が戻る。権力にとっても許容範囲のガス抜きとなる。そういう体制はしなやかだ。
昨年の晩餐会でバイデン大統領は出番を待つコメディアン、トレバー・ノア氏にこんなジョークを送っている。
「次は君の番だ。存分に大統領を貶していいぞ。モスクワと違い、ここでは刑務所に行くことはないから」
ヨーロッパ中世の直言御免文化が、ここ北米大陸で生きていると感じるのはわたしだけだろうか?
文/小西克哉 写真/AFLO shutterstock