大統領の「器」を測る場

ただ、こうした攻撃的ジョークは一時の笑いにとどまらず、次期大統領選に影響を与えることがある。その一例が2011年の晩餐会でのオバマ大統領のジョークだ。当時、再選をめざすオバマ大統領周辺には「アフリカ生まれで大統領になる資格がない」というフェイク情報が飛び交っていた。この陰謀論めいた主張の急先鋒が大統領選共和党候補として2位の支持率を得ていたトランプ氏だった。

当初、オバマ大統領は主張のあまりのバカバカしさに、取り合う素ぶりすら見せなかった。しかし、影響力を増すトランプ氏に反論する必要があるとようやく判断したのか、後になって公式出生記録を公表したのだ。

この年の晩餐会はじつに波乱含みだった。晩餐会にはトランプ氏も招待されており、会場にトランプ氏がいることを確認したオバマ大統領がこうジョークを放った。

「わたしの出生記録が明らかになって一番喜んでいるのは、他でもないトランプ氏だ。なぜなら、これで彼が本当に重要だと思う課題に取り組めるからだ。たとえば、NASAの月面着陸はフェイクだとか、ロズウェルの宇宙人はどこに消されたのか、などだ」

あなたはどこまで笑える? バイデン大統領の「ジョークの実力」とすべらないアメリカンジョークの「鉄則」_4
オバマ元大統領

このジョークに一同大爆笑となったのだが、トランプ氏の笑顔はひきつっているように見えた。その後、彼は大統領選への出馬を決意するのだが、復讐心が人一倍強いだけに、この夜の屈辱がバネとなって大統領選へと突き進み、さらなる陰謀論の嵐を全米に呼び起こしたというのがわたしの見立てである。

晩餐会では大統領だけでなく、ゲストのコメディアンや芸能人もジョークを披露する。その対象は主賓である大統領であることが多い。当然、その内容は風刺的で、世界一の権力者をからかうものとなる。

そのため、この晩餐会はボブ・ホープやフランク・シナトラといった大物が主賓として招かれた時代から、コメディアンの辛口ジョークに歴代大統領がどれだけどっしり構えていられるか、その器の大小を見極める場としても機能してきた。

今年の晩餐会でバイデン大統領に毒舌を放ったのはコメディ専門チャンネル「ザ・デイリー・ショー」の人気者、ロイ・ウッド・Jrだった。まずは紙を取り出し、「大統領、機密書類を忘れていますよ」。そして紙を手渡すふりをして、「いや、まずい。勝手に持ち出しそうだから、わたしが保管します」

これはルールを破って機密文書を自宅などに持ち帰っていたバイデン、トランプ両氏への毒舌であることは言うまでもない。そして次に放ったのが、フランスの年金改革反対デモにかこつけたバイデン大統領の高齢問題だった。

「フランスから学びましょうよ。定年が64歳に伸びたというだけで暴動ですよ。64歳まで働きたくないから、街に出て反乱を起こす。他方、アメリカでは80歳のオッサン(バイデン大統領のこと)があと4年間働きたいと頭を下げる」

ここで不機嫌な表情を見せたら、器の小さな大統領だともの笑いのタネになる。バイデン大統領が率先して大笑いしたのは言うまでもない。