教義に疑問を持つことも許されない
最後に③の忌避(排斥)について。
バプテスマ(洗礼)を受けて正式な信者となった子どもが脱会した場合、その親には育てる義務があるから衣食住こそ子どもに与えるが、聖書研究を強要されたり、むちを使われたりする。
この状態が嫌なら、子どもは家を出ていくしかない。親の援助が必要な時期にこのような経験をするので、子どもはうつ病などの精神病に罹患することもある。完全にネグレクトの状態である。
生活が立ち行かなくなって家に戻ってくる子どもには、必要最低限のこと以外は話しかけるのも許されない。食事も共にしないのだ。
また、教団から脱会した子どもは他の信者たちからも徹底的に無視される。2世の子どもは完全にエホバの証人コミュニティーで育ってくるので、これもキツイ。
とはいえ、今やこれだけのネット社会である。エホバの証人の教義などを批判したり、エホバの証人をめぐる事件などを紹介するサイトも多数ある。
たとえばコンティ裁判(2015年)。アメリカのキャンディス・コンティという元信者の女性が、性的虐待の罪で加害者の男性信者を訴えた事件で、カリフォルニア州の最高裁は約22億円の賠償命令を出した。裁判では、事件を隠蔽しようとした教団側の責任も問われたため、賠償金の40%の支払いが教団に命じられた。
こうしたサイトを見て、エホバの証人の教義に疑問を持った子どもが、その解釈を教団幹部にぶつけただけで排斥されるケースは珍しくない。
ほかにも、マスターベーションや結婚前の性交渉は禁止。独身主義が奨励され、結婚すら歓迎されていない。大学に行かずに伝道者になることを求められ、いまだにハルマゲドンの恐怖を植えつけられる。エホバの証人の2世、3世たちは教義によってがんじがらめに縛られているのである。
以上、順に3点を見てきたが、いずれも、子どもに対する重度の肉体的・精神的な虐待であることがわかるだろう。国はまず事態を十分に把握し、むち打ちの禁止、子どもへの輸血拒否問題の法制化、排斥による子どもへのネグレクトの対策などにしっかりと取り組んでもらいたい。
取材・文/大泉実成 写真/共同通信社 shutterstock