隣室から聞こえてきた容赦ないむちの音
「パパぁ、むちしないでぇ」
隣室からは、小さな男の子が半泣きの様子で訴えている声が聞こえてくる。だが、そのすぐ後に届いたのは容赦ないむちの音と、男の子のすすり泣くような声だった――。
エホバの証人問題支援弁護団が2023年2月27日に厚生労働省を訪れ、エホバの証人の児童虐待の問題を訴えた。その翌日に開かれた記者会見のニュースを見た時、私の脳裏に浮かび上がってきたのがこの声の記憶だった。
むちを受けていたのは、1985年の輸血拒否事件で亡くなった荒木大(仮名)君の弟の荒木健司(仮名)君で、当時4歳だった。1986年に私はこの一家と行動を共にし、翌年『説得――エホバの証人と輸血拒否事件』(現代書館)という本を書いた。
27日の会見では被害者からむち打ちの生々しい状況が語られ、今なお37年前と変わりない体罰が行われていることが明らかになった。同会見で問題視されたのは、以下の3点である。
① 子どもへのむち打ちが児童虐待に当たるか。
② 子どもに対する輸血拒否は虐待やネグレクトに当たるか。
③ 教団を脱会した子どもに対しては、親が会話すらしなくなる「忌避(教団用語でいう「排斥」)」の問題。
① のむち打ちについてはエホバの証人の元信者の夏野なな(仮名)さんが次のように述べた。
「下着を取られて、お尻を出した状態で叩かれますので、皮膚も裂けて、ミミズ腫れになり、座ることやお風呂に入ることが地獄だった。同じ組織の信者同士の間で、何を使えば子どもに効率的なダメージを与えられるかの話し合いが日常的になされていた。一家庭の問題ではなく、組織的に体罰が奨励されていた。性的な羞恥心も覚えるようになり、私は毎日、いつ自殺しようかと本気で悩んでいた」
彼女は父親の皮ベルトでたたかれたというが、靴ベラやゴムホースを用いるというケースもあった。私もかつて取材中に「ミシンの皮ベルトがちょうどいいのよね」と楽しそうに語る女性信者たちの話を聞いたことがある。