服部家に代々伝わる“忍法で炊くあんこ”
忍法で炊いている? それは一体どういうことなのか。
「忍びが使っていた『保存食の忍法』で炊き上げているから、“うちのお菓子に使うあんこは腐らない”と伝承されてきました。
現代だと厚労省の指導により、消費期限はせいぜい半月に設定しないといけないんですが、コロナ禍の観光客減で時間ができたのを機に、東京のある分析会社にお願いして『関の戸』の常温保存での経過を観察してもらったんです。そうしたら通常3日~1週間で腐ってしまう生もののあんこが、2年以上も腐らなかったというデータが出たんです」
さすが秘伝の術。服部さんは続ける。
「もともと腐りやすいあんこを、諜報活動のために歩いて京都や江戸にお持ちしなければいけないので、腐らないあんこを忍法で作る必要があったわけです。僕が毎朝おこなうこの作業は非常に面倒くさいものですが、それは忍法だから。『ロマンがある話ですね』と言ってもらえることもありますね」
ではその“忍法”とは、通常のあんこ作りとどう違うのか。
「論理的には水分調節。水分を減らせば硬くなってしまうから技術的には難しいけど、『関の戸』のあんこは硬くない。炊き方に秘密があって、そのあたりが秘伝なんだと思います。
製法は当家に残されている『菓子仕方控』という、いわゆるレシピ本にも書き残されています。当家の6代目か7代目が1780年に書いたとされていて、今も我が家に残っています。ただ、古文書なので何が書いてあるのか僕には読めない。生前、父が『配合は“菓子仕方控え”の通りにしたよ』と話していて、僕はその作り方は口伝で教えてもらいました。
『菓子仕方控』にしろ、磯田先生にお見せした古文書にしろ、うちにはたくさんの文献が残っている。そもそも、忍者は書き残しちゃ駄目なのに残ってしまっているということは、たぶんうちの先祖は、出来の悪い忍者だったんですよ(笑)」
服部さんの自宅には、現在は使われていないものの「隠し階段」や「壁の後ろに隠し部屋」などのからくりが現存しているという。
そんな「忍び」が隠れ蓑になぜ和菓子屋を選んだのか。そこをひも解いていくと、織田信長の時代に端を発する壮大な「歴史的秘話」があった。
その物語についてはまた後日お伝えする。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
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