飛躍の22-23シーズンへ

2022年2月、北京五輪。河辺は夢に近かった舞台に立った。

SPの6分間練習から不穏さが漂った。周りの選手と呼吸が合わず、得意とするトリプルアクセルのコース取りに手間取り、なかなか跳べない。衝突しそうになる瞬間もあり、ヒヤッとさせた。

残り1分、やや無理矢理に跳んだアクセルは空中でほどけ、着氷は大きく乱れていた。重ねてルッツもうまくいかず、リンクを降りる時、手応えをつかめない焦燥がにじみ出ていた。

「お昼の練習とか普通に調子よかったので、自信もあったんですが。直前(6分間練習)で自分に集中できなくなってしまって。心の弱さが出ました」

冒頭、河辺は歴史に名を刻む意気込みでトリプルアクセルに挑んだが、あえなく失敗した。トリプルアクセルを引っ提げ、突っ走ってきた彼女の挑戦は、これで一つの区切りになった。

心身ともに、全日本にピークを合わせたことは間違いなく、体は思うように動かなかった。

結局、SPもFSも本来の演技はできず、総合15位に終わっている。

「(今回の演技は)申し訳ないし、(自身も)こんな思いもしたくないので。悔しかった部分を全部出せるように、いいものに変えられるように頑張りたいです。4年後は出場するだけじゃなくて、上位を目指せるように」

初の五輪は、苦痛を伴うものだった。しかし、それは次に進む糧になるだろう。彼女はこれまでも率先して困難に立ち向かって成長を遂げ、五輪代表選手になっている。

2022-23シーズン、グランプリシリーズではフランス杯、フィンランド大会の出場が決まった。次の物語の幕開けだ。

写真/AFLO

氷上の表現者たち バックナンバーはこちら