代役からの準優勝

2021-22シーズン、河辺はチャレンジャーとしてシーズンに踏み出している。グランプリシリーズ、スケートカナダは9位に終わった。シニア転向後、実質的な初の国際大会出場で経験不足が出た。

ただ、舞台への挑み方が彼女らしかった。

SPではトリプルアクセルを失敗し、その後のコンビネーションジャンプにも引きずる格好になった。弱気になってもおかしくない。しかしFSも怖気づくことなく、再びトリプルアクセルに挑み、見事に降りることでSP12位からFS6位と大きく巻き返した。

そして僥倖があった。11月のNHK杯、全日本女王である紀平がケガで欠場したことにより、急遽、出場資格を得た。

「シニアでの国際大会の経験が少ないなか、チャンスが回ってきただけでもありがたくて」

そう語った河辺は、失うものがないこの状況で乾坤一擲の演技を見せた。大観衆を前にして腹を括ったのか。SPではビバルディの「四季」より『冬』で、風の声を聴くような静寂さの中、冒頭のトリプルアクセルを完璧に着氷させた。73.88点と自己ベストを8点以上も更新し、2位に入った。

「大きな舞台で緊張もありましたが、落ち着いて演技できたのは自信になります。トリプルアクセルは6分間練習で感覚が合っていたので、自信を持っていけました。降りた瞬間は、安心感が強かったです。アクセルは目標だったけれど、それだけに囚われないようにしてやってきました」

FSはトリプルアクセルこそ失敗したが、3回転ルッツ+3回転トーループを成功させ、次々にジャンプを決めた。ダブルアクセル+3回転トーループ+3回転トーループは、リンクサイドでコーチがぴょんぴょん跳び上がって喜ぶほどの出来だった。

トータル205.44点を記録し、2位という結果を残した。単なる代役以上のお手柄だ。

「今回の結果が、少しでも(北京)オリンピックにつながったらうれしいです」

彼女は野心的に言った。リンクに立つたび、強さを増した。巡ってきた運をモノにするのも実力だ。

「試合でアクセルを決められる確率は、少しずつ上がってきています。でもアクセルなどジャンプだけでなく、スピン、ステップももっとうまくなり、表現の面も出せるようにしたいです。全日本で完璧な演技ができるように頑張っていきたい」

河辺は全日本選手権に照準を合わせていた。逆転で北京五輪出場に滑り込むには、少なくとも表彰台が不可欠だった。簡単ではない挑戦だったが、彼女は運命を引き寄せる輝きを放っていた。

何より、トリプルアクセルという“御旗”があった。