つかんだ北京五輪代表の切符
2021年12月、さいたま。全日本のSPで、河辺は第4グループの6分間練習でリンクに入っている。純白の衣装にシルバーのストーンが煌めき、スケート靴まで真っ白だった。SPの使用曲「ビバルディの『四季』より『冬』」の演出だ。
前日公式練習、曲かけでもトリプルアクセルは転んでいた。しかし、攻める姿勢を崩していない。あどけなさの残る表情は引き締まり、緊張の色を封じ込めるように"やってやるぞ"という気概が全身に出た。
「6分間(練習)では、あまりよくなかったので、いいジャンプのイメージが来るのを待っていました」
河辺はそう振り返っている。大観衆に囲まれても動揺はしていない。
「全日本はもっと緊張するかと思っていんたんですが、6分間で出た時、NHK杯でも大勢のお客さんを経験していたことで、ビックリせず、自然な演技に入れました。経験が力になったのかなと思います」
その勝負度胸が、観客を味方にした。トリプルアクセルを鮮やかに成功した勢いで、3回転ルッツ+3回転トーループも成功で11.45点を記録。最後のジャンプ、3回転フリップも危なげなく降りた。
加えて、スピン、ステップもすべてレベル4だった。最後、雪を拾って天に向かって投げる振り付けのあと、勢いよく両腕を振り下ろしたのは、会心の演技の証だった。
トリプルアクセルに挑む冒険心が、河辺を鍛えた。SPでの成功は、彼女しかいない。破竹の勢いで、FSもトリプルアクセルを成功させた。トータルスコア209.65点は自己ベストだった。
「自分の中で、100点満点のアクセルでした。6分間練習で崩れてしまっていたので、すごい緊張感でした。そこで失うものはないと思って行けたのが、すごく良かったと思います」
ただ、彼女は旗印にだけ縋りついたわけではない。大技に取り組みながら、技術を全体的に改善させてきた。例えばプログラム全体の表現力を上げるため、ステップでは上体の動きを精密にするために練習時間を費やしていた。
「今日はすべてレベル4を取れたのがうれしくて。毎回、どこかで落としていたので。メンタル面でも成長できたのかなって思います。国際大会で緊張する戦いを経験することで成長できたのかもしれません」
河辺はおっとりとした口調だが、競技者としての硬骨な矜持を滲ませる。そのコントラストが、スケーターとしての幅を広げ、全日本3位という結果をもたらした。シンデレラガールのごとく、五輪代表の座をつかみ取ったのだ。