死ぬのをわかってない母と怒鳴る父

堺市の両親の自宅の近所には、幸い私と同じく在宅医療に力を入れているクリニックがあったので、そちらにお世話になることに決めます。

そちらの先生には、両親は通院で時々お世話になっていたようです。母を「穏やかに看取る」方向性での在宅医療のお願いをし、先生は快く主治医となることを引き受けてくださいました。

そのとき、先生はこのようにも付け加えられました。

「しかしね、お母さんは『これからはがんと一緒に生きていきます』と言っていましたよ。残された時間がどれくらい短いか、ご本人はわかっていないのではと僕は思いました。まあ、あまり本当のことを言いすぎてやる気をくじくのも……と思ってそれ以上は口にしませんでしたが……。お母さんが自分の病気の深刻さをわかっていないことは、ご家族として知っておいたほうがいいと思います」

そう、母は、自分はがんとともに「生きていく」と思っていたようなのです。自分の寿命が短いとも思わずに。

私は心の中でこうつぶやきながら頭を抱えました。

「やはりね。わかってないな。自分がもう、本当に死ぬんだって、わかってない」

強い疲労感に包まれたことを今でもしっかり覚えています。

母に「俺のためには一生運転しないってことか!」と怒鳴った父(写真/shutterstock)
母に「俺のためには一生運転しないってことか!」と怒鳴った父(写真/shutterstock)

家に帰ると、母とはまた違うタイプの変わり者かつ自己中心的な父が、母に怒っていました。

父は重度の透析患者で通院しています。透析後はふらつきが出て自動車の運転が危ういので、母が車で送り迎えをしていました。

ところがこの日、母に運転を頼むと断ったため、父はすごく怒っていたのです。

「なんだ、お前! もう、俺のためには一生運転しないってことか! どういうことだ! 俺はお前が運転しなかったらどこにも出かけられないぞ!」

という内容のことを泉州弁でまくしたてています。

「ああ、この何も理解していない人たちに何をどこから説明したらいいものやら」

わが両親を目の前にすると言葉が出てきません。