高卒後の進路選択が限られている

大学進学しない女性の私的内部収益率が高いからといって、男性の賃金より高くなるわけではないことに注意が必要である。

図1・2は厚生労働省の「令和5年賃金構造基本統計調査」の結果の概況より抜粋したものである。図1・2からわかるように、男女ともに学歴が上がるにつれ、賃金が上昇している。20代では学歴間に大きな賃金差はないが、年齢が上がるにつれ、その差はどんどん大きくなっていくことがわかる。

男女で異なる大学進学の経済的利点…高卒女性は30年働いても「平均年収が250万円」という日本の悲しい現実_3
男女で異なる大学進学の経済的利点…高卒女性は30年働いても「平均年収が250万円」という日本の悲しい現実_4
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しかし、同じ学歴であっても男女によって賃金差が大きく、大卒女性と高卒男性の賃金に大きな差はみられない*2

女性は高卒で働いたとしても、賃金はほとんど上昇せず、最も高い年収で約250万円(税込給与)であり、可処分所得は月に20万未満である。

また、高卒女性は高卒男性や大卒女性と比較して、非正規雇用になるリスクを抱えている*3。非正規労働に従事したとしても、低賃金で労働条件も良くないため、転職を繰り返すことで生活が不安定になりやすくなる*4

女性は高卒後すぐの就労を検討しにくく、高等教育進学が選択肢にのぼりやすくなる。一方、男性は高卒後すぐに就労するか、大学へ進学するか、という選択肢を検討しやすくなる*5

経済的利点と高卒後の就職・進学との関係について、簡単にみてきた。経済的利点だけで大学進学を目指すわけではないが、それを無視するわけにもいかないだろう。

また、学歴に応じた収入が男女によって異なる実態も無視できない。女性は高卒後すぐに就労しても、安定した収入が見込めないために、進学せざるを得ないのである。

大学へ進学する「壁」が注目されがちだが、大学進学で得られる経済的利点が男女で異なっている社会──女性がキャリアを中断せざるを得ない立場に追いやられやすい、同じ学歴でも男性より女性の賃金が低いなど──を変えていく必要もある。

脚注
*1 高専は大卒よりも2年早く働き始めるため、教育費が少なくすみ、かつ若年時の税引後賃金が大卒に比肩する水準である(日下田岳史「進路が実質的に意味する生徒の未来」、中村高康・松岡亮二(編著)『現場で使える教育社会学―教職のための「教育格差」入門』ミネルヴァ書房、2021年)。
*2 2017年の「就業構造基本調査」から中卒、専門学校の年数に応じた学歴別賃金でも、同様の結果であった(日下田岳史「進路が実質的に意味する生徒の未来」、中村高康・松岡亮二(編著)『現場で使える教育社会学―教職のための「教育格差」入門』ミネルヴァ書房、2021年)。
*3 2009年入職時点での非正規雇用率は、高卒女性が約45%、高卒男性と大卒女性が約20%、大卒男性は約15%となっている。また、80年代から男性は非正規雇用率の学歴差に大きな変化がない一方、女性は高卒女性の非正規雇用率が大きく上昇し、学歴差が拡大している(阪口祐介「なぜ高卒女性で初職非正規雇用リスクは高まったのか」、中村高康・三輪哲・石田浩(編著)『少子高齢社会の階層構造1人生初期の階層構造』東京大学出版会、2021年)。
*4 杉田真衣「大都市の周縁で生きていく」、中西新太郎・高山智樹(編著)『ノンエリート青年の社会空間―働くこと、生きること、「大人になる」ということ』(大月書店、2009年)。
*5 専門学校や短期大学も選択肢となりうるが、経済的利点の観点から言えば、男性は「高卒か、大卒か」となりやすい

なぜ「地方女子」は呪縛になるのか
寺町 晋哉
なぜ「地方女子」は呪縛になるのか
2026年1月17日発売
1,045円(税込)
新書判/208ページ
ISBN: 978-4-08-721394-2


大学進学において、生まれ育った地域、性別、通っている高校、保護者の学歴など、特に多くの壁=社会的諸条件を乗り越えなければならないのが「地方女子」。
個人の努力や意志の問題に矮小化すると、「壁を乗り越えられないのは自己責任」という重荷を子どもたちに背負わせかねず、「地方女子」を呪縛にしてしまう。
選択の背景にある「当たり前」はどのようにつくられているのか──。
本書では「地方女子」の置かれた現状を教育、制度、経済、社会意識、ジェンダーなど多角的な視点から分析し問う。

【目次】
序章 「地方女子」は「呪縛」なのか?
第1章 「地方」からみた大学進学
第2章 どのように”女の子”になるのか
第3章 理系から遠ざけられる女子たち
第4章 女子はなぜ四年制大学へ進学しにくいのか?
終章 「地方女子」を呪縛にしないために
あとがき

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