テレビ東京のドラマが今期の覇権になる可能性

〇テレビ東京系・ドラマプレミア23『シナントロープ』

『セトウツミ』『オッドタクシー』の此元和津也が脚本を手がける青春群像ミステリー。街の小さなバーガーショップ「シナントロープ」で働く8人の若者たち。突然起こった不可解な強盗事件をきっかけに、一見どこにでもある日常が静かに崩れていく。

画面の湿度が高く、照明のトーンも、会話の間も、すべてが慎重に設計されている。何気ない会話が、後に事件や人物の掘り下げにつながっていき、実写版の『オッドタクシー』とも言える巧みな構成が光る。

登場人物の誰もが“何か”を抱えており、その“何か”が形を見せ始める瞬間にゾクッとする。SNSでは「間の取り方が絶妙」「夜の映像が美しい」といった感想が多い。

序盤ではまだ“ミステリー”の輪郭は見えないが、登場人物たちの行動がすでに物語を動かしている。第1話は“導入”というより、“誘い”だ。静かな会話の中に隠された火種が、これからどう燃え広がるのか。ドラマが進むほどに、この第1話を何度も見返すことになる予感がある。1クールでどんな物語が完結するのか——3か月後が非常に楽しみな作品だ。

〇TBS火曜ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』

「じゃあ、あんたが作ってみろよ」——。この一言に、どれだけの共感が詰まっているだろうか。

第1話は、長く付き合った恋人同士の別れから始まる。献身の末に自分を見失った鮎美(夏帆)と、完璧な男を自負しながら相手の気持ちに鈍感だった勝男(竹内涼真)。勝男のプロポーズに対する鮎美の返事は「無理」。まさかの幕開けだが、このドラマは失恋をきっかけに“変わっていく男”を描く。

“男らしさと女らしさ”、古い時代を引きずる勝男は、令和では絶滅危惧種のような“老害”キャラ。だが、その自覚のなさがリアルでどこか憎めない。竹内涼真の自然な演技が、この人物を現実に引き寄せている。彼が“筑前煮”を作るために初めてエプロンをつける——ただそれだけの小さな変化に、“時代が変わっていく気配”がある。

すでにSNSでは、勝男に「筑前煮男」の異名が…(画像はイメージです/ Shutterstock)
すでにSNSでは、勝男に「筑前煮男」の異名が…(画像はイメージです/ Shutterstock)

軽いテンポとほどよい笑い、そして時代性を映したストーリー。ポップに今の空気を感じられる、まさにTBS火曜ドラマらしい題材だ。