視聴者を置いてけぼりにした三谷幸喜だったが…
〇フジテレビ水曜ドラマ『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』
三谷幸喜が25年ぶりに民放ゴールデン帯へ帰ってきた。1984年の渋谷を舞台に、まだ“何者でもない”若者たちの夢と恋、そして挫折を描く。タイトルからして挑戦的——そこが三谷らしい。
そして、第1話を観た視聴者の多くが戸惑った。菅田将暉、二階堂ふみ、神木隆之介、浜辺美波——豪華キャストがそれぞれの物語をスタートさせ、“夢を追う若者たちの不器用さ”を映し出す構成なのだが、登場人物が多く、会話は絶えず、どこを中心に見ればいいのか分からない。SNSでも「ごちゃごちゃしすぎ」「情報量が多すぎる」といった声が目立った。
けれど、その“分かりにくさ”こそがこのドラマの狙いなのかもしれない。面白いのは、2話目の放送後からSNSの反応が一変したことだ。「2話を見たら一気にハマった」「最初はうるさいと思ったけど、慣れたら心地いい」「どんどん面白くなってきた」など、一転して好意的な声が多くあがった。
普通なら第1話でしっかり山場を作って、視聴者を掴む必要があるが、このドラマでは “掴みを作らない挑戦”を、確信犯的にやっているように思える。三谷脚本だからこそできる荒業だろう。「ここまでは見てくれるはず…!」と視聴者を信頼しているような、そんな幕開けだった。
〇TBS金曜ドラマ『フェイクマミー』
金曜の夜に、ひと味ちがう“母と娘の物語”が始まった。東大卒のエリートが、ひょんなことからヤンキー社長の娘の家庭教師となり、さらには“母親なりすまし”をしていくというストーリー。
第1話から、“多様性の押し付け”を皮肉るようなセリフも飛び出し、今の時代の空気感をしっかり読んでいる。こういう一言があるだけで、ストレスなく見られるドラマなんだと安心する。
脚本はTBSの次世代脚本家育成プロジェクト「NEXT WRITERS CHALLENGE」大賞受賞者・園村三。受賞作をそのまま連ドラ化するという大胆な試みが、今後のドラマ界にどんな影響を与えるのか。その意味でも、注目すべき1本だ。