一貫してるのは「面白いものを作りたい」の一点だけ

――現在、アニメ、ドラマ、漫画と一挙に3作品が公開されています。多忙だと思いますが、ちゃんと寝られていますか?

此元和津也(以下、此元) はい。昨日は9時間寝ました。

――では、今日はたくさん質問してもいいですね。

此元 もちろんです。NGはありません。

――さっそくですが、此元さんが脚本・原作を務めた作品がアニメ映画、地上波実写ドラマ、週刊漫画誌とまったく異なるメディアで異なる作品が同時に公開されています。率直にこの状況をどう捉えていますか?

此元 たまたまです。別々の時期に書いたものが、各作品の制作やスケジュールで同じタイミングに並んだだけ。順番でいえば『シナントロープ』→『ホウセンカ』、今は『カミキル』の原作ですが、週刊でネームを作っています。一本ずつ誠実に向き合った結果がたまたま今こうなっている、という感じです。

ただアニメ、映画、実写、ドラマ、漫画とファン層がバラバラであまり相乗効果を感じませんが、それでいいとは思ってます。「オッドタクシーの脚本家」という売り方はビジネス上の看板としてありがたく受け取りつつ、作品は単体で見てほしいので。

『シナントロープ』では、作中作として過去作品を使ったりもしてますが、あれはなんでも良かったので、気付いた人がちょっと喜んでくれたらなという感じで使いました。

『オッドタクシー』 ©️P.I.C.S./小戸川交通パートナーズ
『オッドタクシー』 ©️P.I.C.S./小戸川交通パートナーズ
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――これまでに日本で一人の作家が、アニメ、ドラマ、漫画とそれぞれまったく異なる作品を同時期に公開するといった前例はあるのでしょうか?

此元
 3タイトルすべてが別の媒体を横断して同時期に並ぶのは珍しいかもしれませんね。

――なぜ、こんな仕事ができるのか不思議です。

此元
 誤解を恐れずに言うと、脚本家は漫画家になれないけど、漫画家は脚本家になれます。漫画家は日常的にフルスタックなので、脚本へ転身は理屈上いける。

でも多くの漫画家はやらない。時間コストが高いわりに権限や名義の主導権が薄くなるし、自由度も低い。だから「できるけど、やる理由が少ない」。結果として、珍しく見えるんでしょう。

――やはり此元さんがデビューは漫画家であるということは大きかったですか?

此元
 最初から「どうしても漫画家になりたい」って執着が強かったわけじゃないから、抵抗なく各媒体に出力できたのかもしれません。ずっと一貫してるのは「面白いものを作りたい」の一点だけで、自分ひとりで全部背負うか、パーツとして最適な位置に入るかは、どっちでもいいです。