「本当に死んでくれてたら他の人に迷惑かからなかったかな」
「人に迷惑をかけるなら死んでしまえ」(祖父)
茨城県東北部にある常陸太田市の閑静な住宅街。築年数が30年以上の一軒家で、闇バイトのリーダー格とされる福地容疑者の家族と親族らが重い口を開いた。12月5日の午前10時に各社が「【速報】首都圏闇バイト強盗事件 指示役4人逮捕」と一斉に報じたあとのことだった。
福地容疑者の家族らによると、1999年に茨城県内で4人きょうだいの次男として生まれた。小学校に入学すると同時に福地容疑者は、この一軒家に引っ越してきたという。長男も剣道をやっていたことから、「僕もやりたい」と両親に自ら申し出て、放課後に学校の施設内で開かれる剣道教室に通うようになった。
祖母は福地容疑者について、「優しい子だったんです。小さい頃から体調などに気を遣ってくれて。昔から粗暴な子ではなかったんです」と同じ言葉を何度も重ねた。目に涙を浮かべながらこう話した。
「闇バイトの指示役として逮捕されたことを知って、足がブルブル震えています。記者の皆さんから今回の事件について聞きました。その話を聞いて、死にたいと思った。もし孫(=福地容疑者)と話せるなら、『どうしてそんなことをやったんだ』と問いかけたい。被害者の方に対しては、ただただ申し訳ないと思うばかりです。なんであんなことをしてしまったの……」
福地容疑者を剣道教室まで送り迎えしたり、小さいころから面倒を見て家族の中でもっとも多くの時間を過ごしてきたという母は、10月に警察から福地容疑者の生い立ちを聞かれ、胸騒ぎがずっと止まらなかった。
「本当に申し訳なく思っています。ケガをされた方もいるとお伺いしていて、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。まずはちゃんと本当のことを話すところから反省の態度を示してほしい。さっき車に乗って停車中にLINEニュースを見て、この事件を知りました。自分でも何を考えていいのかわからなく、これ以上運転したら危ないなと思って、帰ってきました」
民生委員を経験したこともある祖父は、前出のように「死んでしまえ」と話すが、母の本心は異なるようだ。
「そうですね。『死んでしまえ』とまでは、もちろん自分の息子ですからそうは思えないですけど、でも、それぐらいの気持ちではあります。『本当に死んでくれてたら、他の人に迷惑かからなかったかな』と思ってしまう自分もいる。常にその葛藤の中にいます」
「逮捕されてから留置所や鑑別所で面会を重ねました」
福地容疑者は市内の小学校を卒業後、近隣の中学校へ入学。小学校から取り組んでいた剣道も中学では部活として続け、剣道部に入部した。中学2年生の途中からは部長を務め、部員をまとめ上げていたという。
「息子は慕われていたというか、常にみんなが集まってくるような子どもでした。リーダーシップもあり、目立ちはするけど学校で問題を起こすような子ではありませんでした」(母)
「中学ではタバコを吸ったりとか、飲酒をしたりとか、だれかをいじめたりとかそういう素行不良はありませんでした」(祖母)
中学を卒業後、福地容疑者は水戸市内にある県立の農業高校へ進学する。母は「このときに変わってしまった」と明かす。
「実は単位が足りなくて、1年生で学校を辞めているんです。アルバイトとかに明け暮れていたとかではなく、高校に入ってから交友関係が広まり遊んでしまった。帰ってこないことも多くあり、友だちのところにいるんだろうと考え、私も何度も捜して無理やり迎えに行ったこともありました。そこにはガラの悪いいわゆる不良みたいな子もいました。
でも2年生には進級できず、高校を辞めてしまい、本人と相談をしました。すると“とび職”として働きながら通信制の高校へ行きたいと言うので、本人の意思を尊重しました」
ところが、通信制の高校へ転入した数カ月後に福地容疑者は、当時3年生の高校生を集団で暴行し死亡させたとして、傷害致死の容疑で逮捕されることになる。警察が福地容疑者の身柄を押さえにきたとき、福地容疑者は涙を流しながら署へ連行されたという。
「まさかあんな事件を起こすとは思わず、人を死なせてしまったことについて、いまでも申し訳ない気持ちでいっぱいです。ただ、逮捕されてから留置所や鑑別所で面会を重ねましたが、『ごめん』と言う言葉は何度かあるものの、涙を見せることはありませんでした」(母)
福地容疑者が起こした少年事件は、罪の重さから成人と同じ扱いで裁判が進む「検察官送致(逆送)」が家庭裁判所の判断となった。逆送となった場合、刑事処分が相当と判断され、成人と同じように刑事裁判を受けることになる。
水戸地裁は2016年2月、福地容疑者に懲役3〜5年(懲役3年以上5年以下) の不定期刑を言い渡している。その後、福地容疑者は少年刑務所へ入所した。
「手紙では月に一度やりとりをして、資格試験を受けたいと言うから、本を差し入れした。月に2〜3冊だよ。手紙には本の感想が書かれていて、次はこの本で勉強したいとよく言いよったわ」(祖父)
「私(=祖母)と祖父2人で行った面会では『まじめにやるよ』と言ってくれて。刑務所内では高卒認定試験を取るほか、国家資格まで取って頑張っていたそうです。態度も真面目で、刑務所内のルールを破ることなく、模範囚として3年半で出所しました」(祖母)
「刑務所にいたから成人式は出れなかったけれど、出てきてから自分で仕事を探して頑張っていました。県内の不動産企業へ就職し営業を担当してました。ただ、犯罪歴があることから宅建が取りにくいこともあり、近所の目もあったので、出所から1年後に保護観察が外れたタイミングで、東京の渋谷へ行きました。最初は雇われのバーの店長をすると言っていました」(母)
「悪いことはやらないで」と言ってきた
東京へ上京した福地容疑者。そこで家族との連絡が次第になくなっていった。母や祖母は「悪いことはしてないよね」と何度も福地容疑者に尋ねたものの、「元気にやっているよ」としか返事はなかった。ただ、年に2〜3回は実家に顔を見せていたという。
母と祖母の期待を裏切るように福地容疑者は、2023年に逮捕される。2021年、仲間と共謀し「保険に入った方がいい」とうその電話をかけ、山梨県在住の60代女性から現金240万円を騙し取る事件を起こしたのだ。
去年の11月のこと、福地容疑者が実家に日帰りでふと戻ってくる。ただ、足や手にタトゥーが入っており、祖母と母が「消しなさい」と伝えた。
「これまでタトゥーが入ってたことはなく、自分で東京で入れたんだなと思いました。足の甲には筆記体の英語のタトゥーが入っていた。今回のニュースで準暴力団と関わりがあったと報道されており、東京に行ったタイミングでガラの悪い人たちと付き合ったんだなと感じました」(母)
「タトゥーを見たときに驚きました。『やめろ』『消しな』と強く言ってしまい、孫(=福地容疑者)は『うん』とのみ答えました。その後、両親から2個消したと聞き、素直で言うことを聞く孫はまだいたと安心しました」(祖母)
ただ、同じ月に福地容疑者は一連の強盗事件とは関係ない傷害事件で逮捕されることになる。福地容疑者らは24年9月に、知人男性を複数人で暴行し、顔の骨などを折るケガを負わせた疑いが持たれていた。福地容疑者らが成田空港から韓国へ出国しようとしていたところを、千葉県警によって身柄を押さえられた。
この事件で押収したスマホから、一連の強盗事件を指示した痕跡が見つかり、今回の逮捕に至った。
福地容疑者らは、「手の指を思いっきり逆に曲げろ」「住所は知ってる。家族をさらうぞ」などと脅し、実行役に強盗を指示した疑いがある。福地容疑者らが起こしたとされる18件の広域強盗事件は、被害総額は2000万円以上に上り、24年10月に横浜市青葉区で起きた事件では、住人の70代男性が暴行を受け死亡している。
母は最後にこう語った。
「言葉……もう何も言葉にならないです。大人になって、常日頃から『そういうことは、悪いことはやらないで』と言ってきたので。裏切られたかって言ったら、何て言っていいかちょっとわかんないですけど。信じていたので。裏切られたっていうのもありますけど、信じたいという気持ちもありますし。本当に申し訳ございません」
警察は福地容疑者の余罪は他にも多くあると見て、捜査を続けている。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班













