家賃値上げの取り消しへ
6月10日の朝、ほぼ1か月ぶりにエレベーターが動くようになっていた。各階のドアに貼られていた「使用停止のお知らせ」ははがされ、1階に貼られていた「関係者以外立ち入り禁止」の大きなステッカーは無造作に捨てられていた。
「深夜2時頃に人の声を聞いた住人がいますし、夜中にこっそりと来て、エレベーターを再開したのでしょう。建築基準法施行令では、有資格者がエレベーターの運転再開をできるとされているので、施行令に違反する行為だと思います」(50代の男性)
放送3日後の6月11日夕方、「家賃値上げ通知の取り消しについて」と題された1枚の書面が、郵便書留で各戸に配達された。
「オーナーはテレビ朝日の取材に、『住民と接触する機会があれば、大変申し訳ない、と伝えて下さい』と言っていました。しかし届いたのは書面1枚で、謝罪とはとても受け取れない文言でした。しかもO社の住所として記載されていたのは、移転前の住所。住人は皆、改めて怒り心頭に発しています」(50代の男性住人)
次は何が起きるのか……
中国人が代表を務めるO社がマンションのオーナーになって4 カ月半。何より、住人がオーナー側に連絡が取れないことが最大の問題だった。
O社は本社所在地を転々としており、しかも所在地はレンタルオフィスで電話番号もなかった。様々な通知に書かれた連絡先は携帯電話番号で、しかも番号が次から次へと替わった。
当初、7階の部屋を訪ねてきた“オーナー”は「中村」を名乗り、住民と相対して110番通報するなど、最も頻繁に出てきた男だ。中村は、渋谷区の美容品会社の社長も務めていることが分かった。「タチバナ」を名乗る若い男は「辞めた」と言われつつ、マンション周辺で目撃されている。ほかに「李」を名乗る人物が電話に出たこともあった。
本当のオーナーは住人の前に姿を現さず、中村とタチバナと李は、それが本名かどうかも分からないのだ。
マンションの住人は、改めて売却の経緯にも疑念を覚える。このマンションは、地元の信用金庫が長く所有していたが、昨年11月29日、大手不動産会社に売却された。しかしこの大手不動産会社は、1カ月も経たない年明け1月17日に、O社に転売してしまったのだ。
「このマンションの土地と建物の価格は、家賃収入を想定すれば3億円程度だと思いますが、O社は7~8億円出したとの話があります。大手不動産会社としては、それだけ出してくれればボロ儲けで、現金を積まれれば正体不明の会社にだって売る、ということなのでしょう」(不動産業者)
50代の男性住人はこう話す。
「これまで通り平穏無事に暮らしていきたい。私たちの望みは、ただそれだけなのです」
残って闘うことを決めた住人たちは、4カ月半かけて家賃値上げの取り消しを勝ち取った。しかしO社がオーナーである限り、次に何が起きるか分からない状況でもある。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班