空室課税の実現可能性は低い

不動産評論家の牧野氏は今回の神戸市の政策について「市の心情は分かるが、実現可能性は低い」と見る。

「気になるのは、『どうやって空室を調べるのか』ということです。一軒一軒マンションをまわるアナログな方法では到底できないでしょう。

また、住民票の有無を見ても、当然賃貸オーナーが貸し出していて、単に借り手がいない場合もある。逆に投資用に借りた部屋でも、「まだ借り手がいない」と言い逃れできてしまいます。その辺りの検討が今回の神戸市の提案では判然としません」(牧野知弘氏、以下同)

実現可能性に乏しいだけでなく、最悪のシナリオもあるという。

「現在は『タワマンバブル』といえる状態ですが、歴史的に見ても、バブルは自然と収束します。けれども、投資熱がヒートアップしてくると国や自治体は心配になって、今回の空室課税のような議論をしてしまう。

議論するだけだったらいいのですが、それが実行に移された場合、逆に大きな副作用が生じることもある。例えば、平成バブルの崩壊も、融資額の総量規制を行なった結果、予想を上回る株価や地価の大暴落が起きてしまいました」

さらに牧野氏が指摘するのは、神戸市そのものの問題。

「神戸市は、2023年に人口が150万人を切っています。データを見ると転出者がとても多いんです。その結果、人口の社会的増減がマイナスになっている。これは政令指定都市としては異例です。

厳しい言い方をすれば、神戸には住みたいと思う魅力が不足しているのではないか。税金をかけて空き家を減らすぐらいであれば、もう少し根本的なまちづくりに力を注いだ方がいいと思います」

近年、再開発が進んでいる印象がある神戸市
近年、再開発が進んでいる印象がある神戸市

「転売目的」でのタワマン購入が空室を増やす 

では、そこまでして神戸市が「空室課税」を行いたいのはなぜか。

「市が懸念するように、自身が神戸市に住みたいと思ってマンションを買われている方はかなり少ない。それでも2013年の大規模金融緩和でマーケットにお金が流れた結果、東京・大阪、そして神戸といった大都市のタワマンを中心とした投資需要が非常に盛んになってきました」

その際に空室が増えたのは、近年の不動産市場の性格が変化してきたことにある。元来の不動産投資は、物件を購入し、そこを賃貸として貸し出す家賃収入で稼ぐモデルだった。

一方、近年はタワマンが急激に値上がりしているため、物件を購入して値上がりを待って数年のうちに転売し、その差額で儲ける方法が増えている。だから、賃貸として貸し出されない空室が増えるのだ。