対立と分断を無効化するPol.is

田中 プルラリティの中で、実際に動いているなと思ったのがPol.is。検索してみたら、日本でもPol.isというツールを使って、実際にアンケートを取っている。でも、日本語版がまだないから、英語版の翻訳を使っているとのことでした。

 そうですね。Pol.isは合意形成のためのソーシャルメディア・ツールで、台湾では2015年にウーバーが進出する時、受け入れ議論のために導入されました。議題について「賛成」「反対」「パス・不確定」の3つの選択肢のいずれかをクリックすると、投票として集計され、マップ上にグループごとに分かれたアイコンとして表示されます。

主張は違っても「協調し合えるポイント」を可視化できるソーシャルメディアツール「Pol.is」とは? インプ獲得のために「対立と分断」を煽るSNS文化とは異なる新たなデジタル技術_3

Pol.isが面白いのは、反対派と賛成派の「あいだ」の領域が存在するところです。マップ上に各種グループの代表的な発言が表示されるだけでなく、自分たちと他のグループではどこに主要な相違点があり、どこに歩み寄りの余地があるかも可視化されます。確かに「賛成」と「反対」のグループで対立しているけれど、でも「ここは妥協できるよ」というところを見つけられる。それがすごく大事なポイントです。

というのは、ここ数年ずっと、「分断」が政治を語る上での主要なキーワードになっていますが、意見や立場が違っても、実はお互い「協調し合えるポイント」というのはあるんです。でも現代のSNSに代表される巨大プラットフォームは、対立を顕在化させることによって利益を上げている。

田中 アテンションエコノミーにするために、そうなってしまう。

 そうなんですよね。でも実は人々の中で妥協し合える部分とか、共通している利益の部分はあるんです。それを「いかに見えるようにするか」という意味で、Pol.isの取り組みは非常に大事だと思います。

田中 対立を顕在化させず、インターネット上でも熟議ができるという仕組みですよね。これは実際に台湾でやっていて、英語版があるから、私たちもやろうと思えばできるということですね。

 そうですね。今はまだPol.isと言っても、ITに詳しい人とか、一部の専門家しかわからないと思うんですけど、これから日本語版ができて普及していくと、ネット上で議論できる場が生まれてくると思います。今のSNSに見られる対立や分断ではなく、いろいろな人が自分の意見だったり、利害関係というものを建設的に表明できる場にはなるのではないかと思います。

また、去年の東京都知事選に出馬した安野貴博さんという方が、今、Pol.isに近いようなプラットフォームを製作中なので、それも実用化に向けて動いていくと思います。

田中 そういった新たな場ができると、今まで無理だと思っていたことができるようになってくる。そうすると、たとえばPol.isが導入されて、私も社会運動をやっていますから、そこに議題を投げかけてみることはできる。だけど、それが実際の政治に反映するかどうかというところがよくわからない。