Pluralityとは何なのか

 グレン・ワイルさん、今日はありがとうございます。僕は英語版の“Plurality”が出た時から、付箋を貼りながら綿密に読んでいました。今回、この魅力的な本の日本語版が刊行されたことを、とても嬉しく思います。

あなたと共著者であるオードリー・タンさんによる、デジタル民主主義「Plurality」に関する興味深いアイディアが、こうして日本の読者に届くことは、非常にすばらしいことだと思っています。

E・グレン・ワイル氏(左)と李舜志氏(右)
E・グレン・ワイル氏(左)と李舜志氏(右)
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ワイル ありがとうございます。このような機会をいただきまして、私自身も非常にうれしく光栄に思います。これは日本版の序文にも書いたのですが、実は、私が仕事の中で唯一涙が出た経験があって、それは前回、2024年7月に来日した時の出来事でした。

東京お台場の日本科学未来館で、英語版“Plurality”を日本でベストセラーに押し上げることになるイベントに参加したのですが、未来館は私たちが提唱しているPlurality(多元性)の精神を、すでに体現している施設だったのです。

会場の中心にある巨大な地球のディスプレイは、「言語、宗教、民族」といった人間の多様性を考えるためのPlurality(多元的)な見方を表示していました。それは古代のスピリチュアリティと、現代の仮想現実やブロックチェーンによるNFT(Non-Fungible Token:代替不可能なトークン)などを統合した技術によるものでした。

そして施設を案内してくれた浅川智恵子館長による「AIスーツケース(スーツケース型のロボット)」という啓発的なお手本。浅川館長は、ご自身のような目の見えない人々が、尊厳を持って世界をナビゲートできるように、白杖のかわりとなるAIスーツケースを使っていました。私たちもAIスーツケースによるナビゲーションを体験しました。これらはPluralityの物語を具体的に語ってくれる、言葉など及びもつかない出来事でした。

最後は座談会。WIRED Japan編集長の松島倫明さんをモデレーターに、オードリー、のちに日本語版『PLURALITY』の解説文も書くことになる鈴木健さん、未来館の学芸員である小沢淳さん、そして私の4人。この場で私が述べたアイディアはすべて、鈴木さんが10年前に行なっていた活動や、小沢さんが現在取り組んでいる展示、そして観客の皆さんからの質問と共鳴したのです!

時代を超え、世代を超え、日本とアメリカと台湾の文化的相違も超えた対話。親密さを通じての、多様な人々とのコラボレーション。座談会の終わり頃には目頭が熱くなりました。

 あの日、私も観客のひとりとして参加していました。たしかにあの場では共鳴が起こり、私も胸が熱くなったのを覚えています。グレンさんの明るさ、オードリーさんの器の大きさも印象的でした。

そして私は、日本語版『PLURALITY』の入門書ともいえる『テクノ専制とコモンへの道 民主主義の未来をひらく多元技術PLURALITYとは?』(集英社新書、2025年6月17日発売))を書くことになりました。

今日は「PLURALITY」について、あるいはグレンさん御自身のお考えをお聞かせいただければと思います。